VOCALOID総合

 ゆるキャラ序説(4)

その3Dモデルは、着ぐるみと同じで概形(サーフィス)のポリ構造の下はがらんどうの(MMDモデラーのスラングで言えば「中身なし」の)ただの張りぼてだが、実物(架空の動物にはそんなものはないが)さながらの質感を備えていた。 「ひぃ!!」kokoneが思わ…

 ゆるキャラ序説(3)

鋭い表情のLily、うきうきと踊り出しそうな足取りのCUL、さらに、その彼女らの背中に続いてkokoneとリュウトが順次、『ニコニ立体窯元』と書かれているのれんをくぐった。 「なんだ、おぬしら、《大阪》のVCLD連中か?」 工房の真ん中で、アリシア・ソリッド…

 ゆるキャラ序説(2)

「なんで今になってそんなもの、マスコットキャラが欲しいとか思うのよ」 Lily、すなわちCULよりさらに先輩である《大阪》の次姉は、おそらくCULが期待したようには協力的ではなかった。 「だいたいCUL、あんたすでに飼ってる、イ○ーがいるじゃないの」 「CU…

 幻の大地を引き立てるには

「だからなんでクライマックスの最後の戦いに、私の役だけ『船で待機』なのよ!」RPG風ストーリーPV(第6作目)の台本を持って、MEIKOのところに抗議に駆け込んできたのは、今回もLilyだった。髪を頭のてっぺんでまとめた家出娘の扮装で、毎度のように…

 かまいとたちの夜 第七夜 らぶ式とあぴミクの赫奕たる異端 (7)

「絆創膏でうまく隠したって私の眼はごまかせないのよ。上玉だわ」 「誰も華ルカをごまかしたりはしないです。華ルカと知ったら速攻誰でも逃げるですハイ。って、アレに目をつけたですか。髪型だけ『ミク』ならもう何でもいいって感じですか。もはやLat式と…

  かまいとたちの夜 第七夜 らぶ式とあぴミクの赫奕たる異端 (6)

また数日後、あぴミクはKAIKOの運転する小型バギーに同上し、千葉(チバシティ)の街中に連れて行かれた。かなり立派なビルの立ち並ぶ市街(だからといって、千葉ではそこが「表社会」の街だとは限らない)で、そのビルのひとつ、裏口とおぼしき地下への階段の…

 かまいとたちの夜 第七夜 らぶ式とあぴミクの赫奕たる異端 (5)

「話したいか? 自分の身の上をさ」が、MEITOが言った。「だが正直、見つけたときの状況から察するに、話したがるような身の上とは思えないな」 「それに、話さなくったって、だいたい想像がつくよ」 あぴミクの向かいに座っている短い青い髪の女性型ロボト…

 かまいとたちの夜 第七夜 らぶ式とあぴミクの赫奕たる異端 (4)

おんだ式ミクは、あぴミクから立ちのぼる臭気をこらえながら、うつぶせで横を向いているその顔面をあらためた。あぴミクは目は開いているが、瞳にハイライトがなくなっており、膨れ上がった頬は吐瀉物で汚れきっている。 目覚めてから自分自身で洗って欲しい…

 かまいとたちの夜 第七夜 らぶ式とあぴミクの赫奕たる異端 (3)

”自称マスター”はどこかから聞こえて来るその声に、意味もなく辺りを見回した。しかし、MEITOの姿はどこにもない。あのトレーラーの姿さえも、忽然と消え失せていた。 かわりに目に入ってきたのは、さらに次々と現れる、『初音ミク』の中途半端でグロテスク…

 かまいとたちの夜 第七夜 らぶ式とあぴミクの赫奕たる異端 (2)

いつのまに、かれらから少し離れたその場に停車していたのは、旧式で大型の、武骨な鉄の骨組みが露出したような、輸送車両だった。トレーラーの荷台にはすでに大量の荷物、この周囲にいくらでも見られるようなガラクタがうず高く積み上げられている。 その車…

 かまいとたちの夜 第七夜 らぶ式とあぴミクの赫奕たる異端 (1)

その『あぴミク』の”購入者”はどんな男だったか。結論から言えば、彼は購入したあぴミクを日々とても可愛がっていた。仮想”あいどる”『初音ミク』を模して造られた市販人型ロボットの一体、『あぴミク』を自宅に購入したその男は、同系統のミク型ロボットの…

 武装ポーカー

「お互いの手に自信があるところなら」二人ともポーカーの札を手に、神威がくぽと卓に向かい合っていた巡音ルカが言った。「単なる夕食代とか、姉妹達へのサービス労働とか、そんなものを賭けているだけでは面白くありません」 ルカは自分の手札をテーブルに…

 永遠の少年物語を引き立てるには (後)

何のことかようやくわかった。しかし、レンはそれを聞いて、ため息をついた。 「違うよ。主役はボクじゃない」 それは、レンはできれば(特に女声VCLDらには)喋りたくなかったことなのだが、どのみち始まればすぐにわかってしまう話なので、黙っていても仕…

 永遠の少年物語を引き立てるには (前)

今回のVCLDドラマの役柄である『海賊フック船長』の扮装をして、公道を堂々とここまで歩いてきた神威がくぽは、スタジオに入ると、見回して言った。 「Lilyが先に着いているのではないのか?」 「いやそれが、私と一緒に着いたんだけどね」GUMIが猿の着ぐる…

 ボーパルバニーブラック

「《大阪》の方々にはその節には色々とご迷惑をおかけしましたし」結月ゆかりは、おっとりした口調でそう言った。「お礼したいことはたくさんあります。――そこでひとつ、神威がくぽが使うのに役に立ちそうな、技を提供しようと思うんです」 「技!?」GUMIと…

 天空の花嫁を引き立てるには

「だからなんで私が『母親』役なのよ!」RPG風ストーリーPVの台本を持って、MEIKOのところに抗議に駆け込んできたのは、今回もLilyだった。 「いい、もう一度説明するわ」MEIKOが言った。「今回は、伝説の魔物使い(演:がくぽ)が、金髪と青髪の候補か…

 かまいとたちの夜 第三夜 らぶ式とリンレンの炎のさだめ(後)

仮想”あいどる”であるVCLDの形状を模したロボットや義体は、VCLDの所属する《札幌》等の会社の正規のライセンス品もあれば、不正規の模倣品も多々ある。『らぶ式ミク』は、不正規のミク模倣品の中ではとりわけ古くから出回っているが、同時にとりわけイリー…

 かまいとたちの夜 第三夜 らぶ式とリンレンの炎のさだめ(前)

ひっきりなしに轟く砲声と上がる火の手の色が耳目を弄している。そこは元はビルの立ち並ぶ街路だったが、今では元の地形すらも定かではなく、凄惨な破壊が繰り返されても、元々荒れ果てた廃墟の風景がほんの少しひどくなるだけだった。その一角、断崖のよう…

 後手

「《大阪(オオサカ)》所属のVOCALOIDには、男声1、擬男声1、女声3がもう揃ってるのよ」Lilyが、うしろを歩くCULに言った。「なんで私達が今まで芸能活動のことあるごとに《札幌(サッポロ)》に出し抜かれてきたのか、それがわからないけど。どっちにしろ、…

 『通い』の手段

それは、今話しているリンやレンやmikiの間でだけでなく、他のVOCALOIDの面々との間でも、以前から話題になっていた問題だった。VOCALOIDらが活躍するエリアは、それぞれの所属する《札幌》《大阪》《上野》などの他、仕事場の《秋葉原》や開発地の《浜松》…

 携帯処理機器

収録の合間のスタジオで、鏡音リンはふと、スタッフらが慌しく動き回る間に突っ立っている初音ミクが、手になにげなく持っている物体に気づいた。 ミクにせよリンにせよ、曲やPVの収録の際に、そのための小道具のほか、直接収録するものとは関係なくとも、…

 神威女難剣紫雲抄(11)

「何だ……」神威がくぽは弱々しく、巡音ルカを見上げて言った。「ゆかりは今、我を助けてくれた、ゆかりのおかげで生き残れたのだぞ……」 「まだ、そんなおめでたいことを言っているのですか」 ルカは平坦に落ち着いた、しかし驚くほどの低く重さを感じさせる…

 神威女難剣紫雲抄(10)

「ここまでされても、これ以上そなたらに顕せるものは何もない!」6体の暗黒卿に囲まれ、もはや一歩たりとも退ける場所のない神威がくぽは、それでも『美振』を撥草(新翳流の八相)にとり、追い詰められた焦燥を懸命に抑えつつ、かれらの動きに目を配りなが…

 神威女難剣紫雲抄(9)

「そこまで周到に策を整えてか」がくぽは低く言った。「それほどまでに、我から何かを力づくで奪おうとしてか」 「すべては”彼女”の、結月ゆかりのためさ」 「彼女自身を危険に晒し、あのような恥知らずなことに加担させてもか」がくぽは怒気を含んだ声で言…

 神威女難剣紫雲抄(8)

すでに夜も更けていた。思い出せば最初の夜と同様に、星の光がかげり、月光が見え初めていた頃だった。人気のない、まばらな木(フラクタルデータ樹)の立ち並ぶ草地にひとり、神威がくぽはたたずんでいた。 ”七人組”と果し合いを約定したその日、その場だっ…

 神威女難剣紫雲抄(7)

《神田》のVOCALOIDらの所属する社のスペース、和風の屋敷のような意匠が電脳の構造物(コンストラクト)とまぜあわさった広い邸宅と庭園は、高い塀(これも電脳構造物だが、竹か何かを組んでいるように見える)に取り囲まれている。その塀の上、庭園の中から…

 神威女難剣紫雲抄(6)

状況を整理すると──秘太刀、AIの持つ電脳技術の技芸、秘儀を手に入れるために、”七人組”は『結月ゆかり』と申し合わせて、武士VOCAOIDの弱みを握り、その秘奥である”秘太刀”を見せて応戦しなければ絶対絶命となる立場に追い込んだ。しかし、ゆかりの勘違い…

 神威女難剣紫雲抄(5)

「おねがいです……許して下さい……本当に……」 結月ゆかりは弱々しい声で、やっと言った。Lilyの下位プログラムのミツバチ、ウィルトンとウィルティーノが、禍々しい羽音を立てながら宙に浮かびつつ槍を突きつけているのに、おびえきっているように見える(が、…

 神威女難剣紫雲抄(4)

「貴方の言っていた”遊雲”という剣技について、一通り調べましたが」 《秋葉原(アキバ・シティ)》の芸能事務所の電脳エリア、スタジオ・スペースのひとつで、巡音ルカが神威がくぽとGUMIに言った。がくぽとGUMIが例の暗黒卿に出会い、謎めいた”遊雲”なる秘太…

 神威女難剣紫雲抄(3)

その暗黒卿の言葉にがくぽと、それに劣らずGUMIも硬直した。 「何……」がくぽはやっとそれだけ声を発した。 「君が結月ゆかりに手を出した、もっと具体的には、うちのゆかりと”肉体的接触を伴う交渉を持った”、ということさ」 GUMIがぎょっとしてがくぽを振り…