ゆるキャラ序説(2)


「なんで今になってそんなもの、マスコットキャラが欲しいとか思うのよ」
 Lily、すなわちCULよりさらに先輩である《大阪》の次姉は、おそらくCULが期待したようには協力的ではなかった。
「だいたいCUL、あんたすでに飼ってる、イ○ーがいるじゃないの」
「CULのあの犬は『るちあ』ですよ。あの、『○ギー』はその、色々問題になるからやめた方が」kokoneは口を挟んだ。
「自然の動物も可愛いけど、今言ってるのは、会社だけのオリジナルの動物だよ! というか、こう色々と、理想のかわいさをあわせ持った動物だよ!」CULが目を輝かせながら言った。他の活動で、冷静なCULがこんな目や声色をしているところはkokoneは見たためしがない。
「オリジナル動物とか、どういうものを指してるのかよくわかんないわね」Lilyはkokoneに目を移し、「心実、何の話かわかる?」
「あの、『心実(ここみ)』じゃなくて、『心響(ここね)』なんですけど」kokoneはすみやかに訂正してから、「あの、今日、《浜松》でCULと一緒に、変わった生き物を見かけて……なんかこう、その……犬といいますか、それでいてつるりぬるりとしているといいますか……」
「何の謎のクリーチャーの話かわかんないわね。VCLD亜種だの派生の謎クリーチャーなら、既に変なのがいくらでも動画とかに出てくるのに」Lilyは肩をすくめ、「要するに何だか知らないけど惚れ込んだわけね。でもうちにはVCLDビジネスに繋がる活動以外に余計なことをやってる予算も時間もないのよ。ただでさえあの《札幌》のやつらの鼻をあかして、なおかつ、あとからあとから湧いて出てくる上に目立ちたがりの《上野》の大量の連中に、足元をすくわれないように全力を挙げなくちゃいけないのに」
「VCLDビジネスと関係あるよ! キャラを使ったキャラクタービジネスだってあるよ!」CULは真剣に、Lilyとkokoneに主張した。
「でも、わたし達VCLD自身がすでにマスコットキャラみたいなものですし、自分達と変な派生クリーチャーで手一杯ともいえますし」kokoneがLilyの判断を支持してCULを説得しようとしたのは、結局のところこの時点ではLilyの言っていることの方がkokoneには理解できたためで、そういった意味では彼女は理詰めだった。「ええと、確か、VCLDとして成功したビジネスモデル、《札幌》でも、VCLDと無関係の会社のマスコットキャラなんて持ってませんし、そんなことで成功した例もありませんし……」
「心愛!」と、突如、Lilyが口を挟んだ。「今、何て言ったの」
「あの、『心愛(ここあ)』じゃなくて、『心響(ここね)』なんですけど」
「それは確かなのね!? 《札幌》のやつらがまだやったことがない、ってことよ」
「やったことがないって、何をですか……」
「ビジネスモデルとしての会社のマスコットキャラよ!」
 kokoneはぐるぐると頭をめぐらせた。一旦混乱した頭を落ち着けてから、引き出しを端から開けるように記憶を確かめ、
「……ええ、まあ、その、《札幌》にVCLD以外に関係ない動物のマスコットがいるとか何とかの話は、今のところ聞いてません……」
「やつらがやってないことなら、何でもやるのよ! 《札幌》のやつらの真似をしていたらいつまでも背中を追うだけよ。裏をかくのよ。いざというときに何がやつらの急所を突く弾丸になるかわからないわ!」Lilyが叫んで、アニメに出てくる悪の総帥のように手を水平に振りかざした。「《大阪》の社のマスコット動物を大々的に売り出すわよ!」
「ええ!?」kokoneが思わず呻いた。 
「ねえ、僕は僕は!? マスコット動物じゃないの!? 売り出さないの!?」リュウトがLilyの叫びに反応して駆け寄ってきた。
「あんたは黙ってなさい。てかあんたすでに別の放送会社の版権キャラの擬人化じゃないの。使えんやつだわ」
「使えるのを新しく作ろう! 浜松のアレみたいなやつ!」CULは目を輝かせて言った。「どうする! 漫画家に頼むか! 絵師に頼むか! ピアプロで募集するか!」
ピアプロとかで、やつらに何をやってるか気取られるのは……というか、やつらのおひざ元でコトを進めていくのはしゃくだわね」Lilyの瞳が鋭い光を帯びた。「何か、やつらの裏をかきつつ、新キャラを完成させるコネクションはないかしら……」
「んー? 何かキャラとか作るんなら、『ニコニ立体ちゃん』の所に行けばいいよ」リュウトが言った。
「誰よそれは」Lilyが言った。
「ええと、聞いたことはあります。確か、3Dモデラーじゃ……」kokoneは思い出すように言ってから、「リュウト、知りあいだとかですか……」
「うん。ここしばらく、毎日工房を覗きに行ってるよ。見てると、ずっと何か作ったり、イッカーンとか言って割ったりしてる。その間、スゴイんだ」
「スゴいって、何がですか……」kokoneはリュウトの口調に不安を覚えながら言った。
「服装が。下半身が見放題なんだよ」


 (続)