KAITO

 幻の大地を引き立てるには

「だからなんでクライマックスの最後の戦いに、私の役だけ『船で待機』なのよ!」RPG風ストーリーPV(第6作目)の台本を持って、MEIKOのところに抗議に駆け込んできたのは、今回もLilyだった。髪を頭のてっぺんでまとめた家出娘の扮装で、毎度のように…

 夏はなんとかが

このハイネ西川の扮装+青マフラーもどきのマントを見て、真っ先にある男声VCLDの「お笑いキャラ時代」を連想した人は、いまや間違いなく「古参」を名乗っていい

 かまいとたちの夜 第七夜 らぶ式とあぴミクの赫奕たる異端 (7)

「絆創膏でうまく隠したって私の眼はごまかせないのよ。上玉だわ」 「誰も華ルカをごまかしたりはしないです。華ルカと知ったら速攻誰でも逃げるですハイ。って、アレに目をつけたですか。髪型だけ『ミク』ならもう何でもいいって感じですか。もはやLat式と…

  かまいとたちの夜 第七夜 らぶ式とあぴミクの赫奕たる異端 (6)

また数日後、あぴミクはKAIKOの運転する小型バギーに同上し、千葉(チバシティ)の街中に連れて行かれた。かなり立派なビルの立ち並ぶ市街(だからといって、千葉ではそこが「表社会」の街だとは限らない)で、そのビルのひとつ、裏口とおぼしき地下への階段の…

 かまいとたちの夜 第七夜 らぶ式とあぴミクの赫奕たる異端 (5)

「話したいか? 自分の身の上をさ」が、MEITOが言った。「だが正直、見つけたときの状況から察するに、話したがるような身の上とは思えないな」 「それに、話さなくったって、だいたい想像がつくよ」 あぴミクの向かいに座っている短い青い髪の女性型ロボト…

 かまいとたちの夜 第七夜 らぶ式とあぴミクの赫奕たる異端 (4)

おんだ式ミクは、あぴミクから立ちのぼる臭気をこらえながら、うつぶせで横を向いているその顔面をあらためた。あぴミクは目は開いているが、瞳にハイライトがなくなっており、膨れ上がった頬は吐瀉物で汚れきっている。 目覚めてから自分自身で洗って欲しい…

 かまいとたちの夜 第六夜 真・Lat式ぱらだいす (4)

その”ミク”の声でしゃべっているのは、この設備の機器のメモリーの中に保存されているらしい、人格プログラムのようだった。 それは、さきほどの帯人自身が炉心リンらに説明した、仮想人格だった。培養したLat式ミクの体がある程度育ったら、その中に入れら…

 かまいとたちの夜 第六夜 真・Lat式ぱらだいす (3)

かれらの居るのと反対側の入口、奥の扉が開いた。 「おい、何だ、今の音は――」尋ねたのはおそらく、この培養室のコンピュータシステムのボイスコマンダに対してなのだろう。この部屋の超ハイテク機器でも、そんな抽象的な質問に答える機能があったかどうかは…

 かまいとたちの夜 第六夜 真・Lat式ぱらだいす (2)

その『Lat式パッケージ』の流通をたどること自体は、特に難しくはなかった。帯人の患者や医療器材関係者の話から、それを客に売っている業者、さらにその業者に卸している元、流れている流通路を順番に探ることができた。人づての流通なのでネットでは調べら…

 かまいとたちの夜 第六夜 真・Lat式ぱらだいす (1)

彼女は灰色の闇の中でうっすらと眼をあける。自分が抱えている膝、そうしている肩と腕の感触、それしか感じられるものはないが、自分の体が、前に目覚めたその時よりも、のびやかに、細みと丸みを共におびて、育っているのがわかる。 この体を、美しいとかす…

 『設定集』をアップしてくれと言われたので

やむを得ず重要設定を大放出 ◆忍◆ ニンジャ名鑑#??【ネコネコソウウケ】 ◆殺◆ 「ソウウケヤッタ(もちろん性的アトモスフィアで)ー!!」 ・ネコサイバーV1=サン、ネコサイバーV3=サンの2体のシュウドロイドで構成されるカリスマめいた人気アイドルデュオユニ…

 白虎野への道 〜 逆風のしらべ (後)

が、専務の体内に吸い込まれた電光は、その全身からふたたび刀身に向かって、広がったのとは逆の方向に収束していくのがつぶさに見えた。そして、その電流は刀身から、入った方向から見るとV字の軌道を描いて、マトリックスの空中に再び迸り出た。 その放電…

 白虎野への道 〜 逆風のしらべ (中)

リンはその叱咤の声の主の姿を見た瞬間、てっきり多国籍闇社会組織”ヤクザ”の幹部かと思った。広場のスペースの端に立っていたのは、喪服のように真っ黒いスーツをまとったミラーグラスの、見たところ初老の男の姿の電脳空間内概形(サーフィス)だった。どち…

 白虎野への道 〜 逆風のしらべ (前)

鏡音リンの目に入ったその人物は、緑に彩られた庭園の空間に、おおよそこれほどそぐわない姿もないと思わせた。この庭園には、草地の中に朽ち果てた古代の城跡のようなオブジェクトが配置され、飛石による道の上のそこかしこに、石のアーチの門がある。――そ…

 剣と魔法とボカロもの 〜 癒しの女王と黒翼の魔王 (4)

4.月光の匙

 剣と魔法とボカロもの 〜 癒しの女王と黒翼の魔王 (3)

3.風よ。龍に届いているか

 剣と魔法とボカロもの 〜 癒しの女王と黒翼の魔王 (2)

2.慈悲の不在

 剣と魔法とボカロもの 〜 癒しの女王と黒翼の魔王 (1)

1.女王の受難

 甘い収穫V

「何だろう」KAITOが肩に手をやりながらそう言ったのを、家のリビングの長椅子に寝転んでMEIKOのロック雑誌をめくっていた鏡音リンが見上げた。 「肩、っていうか、首が……凝ってる、っていうより、締め付けられてるみたいな苦しさがあるんだ」 「疲れとかじ…

 足運びとその距離

それはKAITOと初音ミクが、動画収録のためのロケに向かう途中のことだった。その札幌市の郊外の自然林に近い一帯は、雨が上がってもう何日か経っていたのだが、草地が途切れたその周辺は、かなりの面積がまだぬかるみになっており、かれらの行く手を阻んでい…

 岬の教会

KAITOと初音ミクがその『岬の教会』のある場所だという、村はずれの土地にやってきたとき、そこには『教会』どころか、明らかに『岬』さえも見当たらなかった。 きっかけは、誰かわからない作詞者の作った、岬の教会の歌だった。その歌詞の中に、波間に洗わ…

 Troublesome Gemini (4)

一連のメンテナンスの試験も終わりに近づいたその日、リンとレンはMEIKOに連れられて、かれらが開発され所属する《札幌(サッポロ)》の社の一室にやってきた。そこは、VOCALOIDの研究開発スペースの片隅にある広い一室で、入ってみると試験機器が山積みになっ…

 ただ安息のために (4)

「あらあら、メイコさん、いいんでしょうか?」フリーPは、入り口に立ったMEIKO姉さんに微笑んで言いました。 「何が?」姉さんは憮然として言いました。 「何って……あのう、誰に向かってものを言っているか、わかってます?」フリーPは少し困ったような笑…

 ただ安息のために (3)

わたしはその日になって、直前にようやく決心して、収録がちょうど終わった頃を見計らって、兄さんの収録しているスタジオに向かいました。 兄さんに会ったところで、何を言えるのか、なんてことはわかりませんでした。仕事が増えない方がいい、なんて言える…

 ただ安息のために (2)

「何だか、はかどらない感じね」その日、仕事が終わった後のわたしに、MEIKO姉さんが言いました。「KAITOの仕事の方に走って行くの、折角やめたっていうのに。自分の仕事の方に身を入れるわけでもないようじゃ、しょうがないわね」 そう言いながら姉さんの声…

 ただ安息のために (1)

──いつから、こんなにあわてて兄さんのところに走っていくようになったのか、よくわからないけれど。ただ、それは、わたしの曲が増えて忙しくなったからではなく、兄さんの曲が少しずつ増えはじめた、ちょうどその頃の時期からだったと思います。 その日も、…

 KAITOの島唄 (7)

日がおちてゆく。最後の海風が、島に吹きつける音が激しくなっている。島をなぶり苛むような波が繰り返し打ち寄せる音も響いてきた。 ネットワークの海に流れ去り消え失せたあの庭園の、碑のそばに立ち、KAITOはその碑のかたわらに置かれたままの、”三線”を…

 KAITOの島唄 (6)

「私が、すべてを作ったというわけではない」灯台守は語り始めた。「かつてこの島が作られたとき──島を作る人間の技術者を助けるため、島の構造や島民のすべてのデータを収め、把握していたが、作る人間たちを補助し、記録していただけだ」 KAITOと共に移動…

 KAITOの島唄 (5)

その何日か後、四声のVOCALOIDは島の端、海辺の光景に沿って、歩いていた。 昼間の間は海風、海から島に向けての風が吹く。たとえそのすべてが仮想の擬験(シムスティム)で再現されている環境であっても、その海風が激しいさざ波の音と共に、海の香りをたえず…

 KAITOの島唄 (4)

突如、まぶたの向こうの明るさに気づいた。──うっすらと、次第に目をあけると、自分の両袖を握りながらKAITOの顔をのぞきこんでいるミクの、今にも崩れそうな表情がまっすぐ目に入った。 KAITOが意識をとり戻したのを認めたそのミクの表情が、突如崩れて、そ…