2008-08-01から1ヶ月間の記事一覧
しかしそれ以後、数日ごとを隔てて幾度か、初音ミクは物理空間のボディで、大通(オオドオリ)沿いの本社のあるビルの、そのROM構造物のパッケージを設置した端末機器室を訪れた。 「まだ調べてたの?」その何度目かに、リンが部屋をのぞきこんで言った。 …
大通(オオドオリ)沿いの本社の、メインシステムの一部を借りる許可を貰い、ミクとリンは、その”詩人”の人格が記録されたROM構造物の黒いパッケージを、社の一室にある端末まで持っていった。 端末の、いまどき見慣れないROMのカートリッジユニット用の…
はてしないとさえ思われる静寂と闇に覆われ続けていたその空間に、唐突に、まるで不意に、光が差し込んだ。重い扉が音を立てて開き、その奥に、何年とも何十年ともつかない時をへだてて、日光が射し込み、外気が吹き込んだ。 自動開閉装置の壊れて久しい倉庫…
VCLD界隈の空気が、というより、兄姉の動画をひとつずつ、知っている人をひとりずつ、見つけるごとに喜んでいた頃と比べて自分の肌が、いまやすっかり変わってしまった、と思うごとに、自分の中のVCLDのきっかけのような動画を意識して巡回するというのを繰…
『マクロス7』に登場する歌手、熱気バサラは、しばしば脚本や演出の描き手ごとに描写がやたら食い違って見えますが、そのうちひとつ、映画版販促用の短いCDドラマの脚本家はバサラに、AIアイドル歌手シャロン・アップルに対して、 「機械に”本当の歌”は…
文章の性質上自動キーワードリンク機能が便利そうだと思ったからだけど本当にわかりにくいキーワードはほとんど自分でリンクを張ってるので実は何の役にも立っていないと気づいた時にはすでに半年
紫と白の少女は、苦悶の汗を額を洗う瀑布の如くに流し続ける青年のかんばせを、そっと撫でるように布で優しく拭った。 「押さえつけて」それから、立ち上がると、リンに言った。「暴れるので」 リンは、この上何が起こるのか、予想してもおそらく全く無駄な…
鏡音リンは自宅のキッチンの裏の、空気を入れかえていた勝手口の扉を閉めようとして、家の方にまっすぐ歩いてくる人影に気づいた。 その二つの人影を見て、リンは最初、すぐ上の姉と兄が帰ってきたのかと思った。が、やがてそれが、自分や兄弟姉妹とはかなり…
電脳空間(サイバースペース)の意識の通信交差(トラフィックス)、有用無用の大量のモノを含む情報の清流が、大量に流れぶつかる滝をのぞむ岸に、KAITOはたたずんでいた。 と、近くで小さな悲鳴のような声を聞いて、KAITOは振り向いた。 「ミク……何してるんだ…