2011-01-01から1ヶ月間の記事一覧

 ただ安息のために (3)

わたしはその日になって、直前にようやく決心して、収録がちょうど終わった頃を見計らって、兄さんの収録しているスタジオに向かいました。 兄さんに会ったところで、何を言えるのか、なんてことはわかりませんでした。仕事が増えない方がいい、なんて言える…

 ただ安息のために (2)

「何だか、はかどらない感じね」その日、仕事が終わった後のわたしに、MEIKO姉さんが言いました。「KAITOの仕事の方に走って行くの、折角やめたっていうのに。自分の仕事の方に身を入れるわけでもないようじゃ、しょうがないわね」 そう言いながら姉さんの声…

 ただ安息のために (1)

──いつから、こんなにあわてて兄さんのところに走っていくようになったのか、よくわからないけれど。ただ、それは、わたしの曲が増えて忙しくなったからではなく、兄さんの曲が少しずつ増えはじめた、ちょうどその頃の時期からだったと思います。 その日も、…

 推定無罪

「状況を説明するわ」MEIKOが言った。「数日前、北海道大学(ホクダイ)のオタ学生O君が逮捕された。彼のリュックには、その数時間前ア二×イト札幌店の店頭から無くなっていた、『初音ミク等身大水着POP』が入っていたのよ」 「水着POPって、ここしばら…

 天地と彩りと毛髪

神威がくぽは、大事そうに覆いをかけて持って来た巨大な絵のスタンド額を、スタジオの控え室の壁際に据え付けた。 「この控え室は、味気がないと常々思っておったのだ」他の面々に問われて、がくぽはそう説明した。「そこで、この部屋を彩る華にと、我の日ご…