2010-06-01から1ヶ月間の記事一覧

 KAITOの島唄 (4)

突如、まぶたの向こうの明るさに気づいた。──うっすらと、次第に目をあけると、自分の両袖を握りながらKAITOの顔をのぞきこんでいるミクの、今にも崩れそうな表情がまっすぐ目に入った。 KAITOが意識をとり戻したのを認めたそのミクの表情が、突如崩れて、そ…

 KAITOの島唄 (3)

「ここ、崩れかけてるよ」リンが周囲を見回して言った。「この辺り一体」 それからリンは不意に、ある箇所を見つけて、駆け寄った。庭園の風景の一部に唐突に介入しているようなそれは、擬験(シムスティム)の光景そのものに入った、大きな亀裂だった。 地割…

 KAITOの島唄 (2)

ずっと伝えようと歌っていた。自分の中に生じた、悲しみや、哀惜や、ときに小さな感傷や、その他の形にならないものすべて、何かをとらえて、ただ歌声の形にしようと、それだけを感じて歌っていた。VOCALOIDとして《札幌(サッポロ)》でデビューした後の長い…

 KAITOの島唄 (1)

どこまでとも知れず広がる青空のもと、いつまでとも知れず打ち寄せ続けるさざ波は、本物の自然のそれではなかった。それは、いずれの空間と時間に渡っても一様に続くもので、自然にはあり得るものではなかった。 しかし、理想化されたそれは、自然のものでな…