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カウボーイとウィザードは、無力化したウェイジメイジの端末のデータを調べた。ウェイジメイジは、接続ハードウェアとソフトウェアの破壊により回線を切断されてマトリックスから強制的に弾きだされ、おそらく物理空間では気絶くらいしているであろう(数分…
対AIライフルを構えたカウボーイの、ターゲットスコープ(をわざわざ模して造られた、探知用のプログラム群)とその傍らのディスプレイに、周辺の空間を分析した結果がロックオン表示として現れているのが青年にも見えた。その分析の図示は、敵のウェイジ…
「離れちゃいけないぜ」カウボーイは、対AIライフルを肩からおろしつつ、青年に言った。「といったって、お前にそう遠くまでいける移動手段はないだろうけどさ」 青年は戸惑った。敵のいる場所まで一緒に来るとは覚悟してきたが、その後、その当の敵、”チ…
青年と、《浜松(ハママツ)》のカウボーイとウィザードの三者は、マトリックスの格子(グリッド)の荒野、まばらなフラクタルのデータ情報樹の狭間を、滑るように移動した。この木々の〈木遁〉を借りる、とかふたりは言っていたが、青年には他のふたりが何をど…
「――まあ、CRV1が、これをCV01に見せたくないって理由はよくわかるぜ」カウボーイは、その送られてきたファイルの中身を見て言った。「しかし、おれたち向けだからって『グロ注意』の注意書きくらいは付けてほしいもんだな、CRV1も」 カウボーイ…
その叫びに、"オルゴールの精霊"が、青年を振り向いて言った。 「ええと、あの……向こうは、ライブ中なのは、わたしのアスペクトですから」 青年は押し黙った。つい先まで嫌いだの害してやるだのと息巻いていたその相手、ミクからじかに声をかけられ、しかも…
「『本気でVCLDを嫌っていて、潰そうとしてる連中』がいる、それは確かなんだけど、さ。ただ、ちがうのは、それはお前達みたいな《秋葉原(アキバ・シティ)》の一般人なんかじゃなく、巨大組織の群れだ、ってことだ」長身で灰色の髪、工兵の戦闘服のような電…
電脳空間(サイバースペース)。既知宇宙(ネットワーク)の輝く論理(ロジック)の格子に散らばる、無数の情報の星々は、いかなる類の夢や欲望を有する人々もひきつけてやまない。否、夢や欲望といった動機ですらなく、単なる邪悪な好奇心のみを抱いている者にと…
が、専務の体内に吸い込まれた電光は、その全身からふたたび刀身に向かって、広がったのとは逆の方向に収束していくのがつぶさに見えた。そして、その電流は刀身から、入った方向から見るとV字の軌道を描いて、マトリックスの空中に再び迸り出た。 その放電…
リンはその叱咤の声の主の姿を見た瞬間、てっきり多国籍闇社会組織”ヤクザ”の幹部かと思った。広場のスペースの端に立っていたのは、喪服のように真っ黒いスーツをまとったミラーグラスの、見たところ初老の男の姿の電脳空間内概形(サーフィス)だった。どち…
鏡音リンの目に入ったその人物は、緑に彩られた庭園の空間に、おおよそこれほどそぐわない姿もないと思わせた。この庭園には、草地の中に朽ち果てた古代の城跡のようなオブジェクトが配置され、飛石による道の上のそこかしこに、石のアーチの門がある。――そ…
「何だ……」神威がくぽは弱々しく、巡音ルカを見上げて言った。「ゆかりは今、我を助けてくれた、ゆかりのおかげで生き残れたのだぞ……」 「まだ、そんなおめでたいことを言っているのですか」 ルカは平坦に落ち着いた、しかし驚くほどの低く重さを感じさせる…
「ここまでされても、これ以上そなたらに顕せるものは何もない!」6体の暗黒卿に囲まれ、もはや一歩たりとも退ける場所のない神威がくぽは、それでも『美振』を撥草(新翳流の八相)にとり、追い詰められた焦燥を懸命に抑えつつ、かれらの動きに目を配りなが…
「そこまで周到に策を整えてか」がくぽは低く言った。「それほどまでに、我から何かを力づくで奪おうとしてか」 「すべては”彼女”の、結月ゆかりのためさ」 「彼女自身を危険に晒し、あのような恥知らずなことに加担させてもか」がくぽは怒気を含んだ声で言…
すでに夜も更けていた。思い出せば最初の夜と同様に、星の光がかげり、月光が見え初めていた頃だった。人気のない、まばらな木(フラクタルデータ樹)の立ち並ぶ草地にひとり、神威がくぽはたたずんでいた。 ”七人組”と果し合いを約定したその日、その場だっ…
《神田》のVOCALOIDらの所属する社のスペース、和風の屋敷のような意匠が電脳の構造物(コンストラクト)とまぜあわさった広い邸宅と庭園は、高い塀(これも電脳構造物だが、竹か何かを組んでいるように見える)に取り囲まれている。その塀の上、庭園の中から…
状況を整理すると──秘太刀、AIの持つ電脳技術の技芸、秘儀を手に入れるために、”七人組”は『結月ゆかり』と申し合わせて、武士VOCAOIDの弱みを握り、その秘奥である”秘太刀”を見せて応戦しなければ絶対絶命となる立場に追い込んだ。しかし、ゆかりの勘違い…
「おねがいです……許して下さい……本当に……」 結月ゆかりは弱々しい声で、やっと言った。Lilyの下位プログラムのミツバチ、ウィルトンとウィルティーノが、禍々しい羽音を立てながら宙に浮かびつつ槍を突きつけているのに、おびえきっているように見える(が、…
「貴方の言っていた”遊雲”という剣技について、一通り調べましたが」 《秋葉原(アキバ・シティ)》の芸能事務所の電脳エリア、スタジオ・スペースのひとつで、巡音ルカが神威がくぽとGUMIに言った。がくぽとGUMIが例の暗黒卿に出会い、謎めいた”遊雲”なる秘太…
その暗黒卿の言葉にがくぽと、それに劣らずGUMIも硬直した。 「何……」がくぽはやっとそれだけ声を発した。 「君が結月ゆかりに手を出した、もっと具体的には、うちのゆかりと”肉体的接触を伴う交渉を持った”、ということさ」 GUMIがぎょっとしてがくぽを振り…
数日後、神威がくぽ、GUMI、Lilyの3声の《大阪(オオサカ)》所属のVOCALOIDが、いわゆる同業者らの集う《上野(ウエノ)》の事務室を訪れた。かれらの”末弟”の、リュウトを迎えに行くためである。リュウトは諸事情があって、他の幼年のアーティストらに紛れて…
月が見えてきた。晴れ渡り星の見えていた深夜の空が、月光のせいで星の光がかすみ始めると同時に、イベントが終わり、人々はまばらに帰路につき始めた。 それは『主婦に人気! 星空ハグの星占いコーナー』とか何とかいう辺境の小ウェブサイトが開催した、さ…
8.ネメシス
7.闇の聖典
6.戦闘の監獄
5.黄泉の覇王
4.月光の匙
3.風よ。龍に届いているか
2.慈悲の不在
1.女王の受難