GUMI

 ゆるキャラ序説(4)

その3Dモデルは、着ぐるみと同じで概形(サーフィス)のポリ構造の下はがらんどうの(MMDモデラーのスラングで言えば「中身なし」の)ただの張りぼてだが、実物(架空の動物にはそんなものはないが)さながらの質感を備えていた。 「ひぃ!!」kokoneが思わ…

 ランボルギーニと百式

そのふたりがすれ違う瞬間、険悪な空気が流れた。というより、空気以前にそのふたりは特に公の場で自分の感情を覆い隠す『大人の対応』などをする人々ではなかったため、あからさまに顔に出ていた。 「あのさ、がくぽ兄上と、《札幌》の㍗さんって」 GUMIが…

 武装ポーカー

「お互いの手に自信があるところなら」二人ともポーカーの札を手に、神威がくぽと卓に向かい合っていた巡音ルカが言った。「単なる夕食代とか、姉妹達へのサービス労働とか、そんなものを賭けているだけでは面白くありません」 ルカは自分の手札をテーブルに…

 利用される者

「あっ、あの」 『蒼姫ラピス』が、身長6インチたらずの全身を使って、MMDドラマの台本のページをめくり、一か所を指し示して言った。 「ここ、……『私の身体だけが目当てだったのね』という台詞があるんですけど」 怯えきった震え声と、その周囲をはばか…

 東方の邪教

「かつて中世の西洋の歴史家は、”ジパング”の人間らを、『偶像崇拝を行い悪魔的な信仰を持つ者達』と、畏怖ながらに書いていたことがあります」 自身はドルイドのダークアートの心得をもつ巡音ルカが、まるで他人ごとのように言った。 「かれらにとって、ジ…

 永遠の少年物語を引き立てるには (後)

何のことかようやくわかった。しかし、レンはそれを聞いて、ため息をついた。 「違うよ。主役はボクじゃない」 それは、レンはできれば(特に女声VCLDらには)喋りたくなかったことなのだが、どのみち始まればすぐにわかってしまう話なので、黙っていても仕…

 永遠の少年物語を引き立てるには (前)

今回のVCLDドラマの役柄である『海賊フック船長』の扮装をして、公道を堂々とここまで歩いてきた神威がくぽは、スタジオに入ると、見回して言った。 「Lilyが先に着いているのではないのか?」 「いやそれが、私と一緒に着いたんだけどね」GUMIが猿の着ぐる…

 ボーパルバニーブラック

「《大阪》の方々にはその節には色々とご迷惑をおかけしましたし」結月ゆかりは、おっとりした口調でそう言った。「お礼したいことはたくさんあります。――そこでひとつ、神威がくぽが使うのに役に立ちそうな、技を提供しようと思うんです」 「技!?」GUMIと…

 天空の花嫁を引き立てるには

「だからなんで私が『母親』役なのよ!」RPG風ストーリーPVの台本を持って、MEIKOのところに抗議に駆け込んできたのは、今回もLilyだった。 「いい、もう一度説明するわ」MEIKOが言った。「今回は、伝説の魔物使い(演:がくぽ)が、金髪と青髪の候補か…

 後手

「《大阪(オオサカ)》所属のVOCALOIDには、男声1、擬男声1、女声3がもう揃ってるのよ」Lilyが、うしろを歩くCULに言った。「なんで私達が今まで芸能活動のことあるごとに《札幌(サッポロ)》に出し抜かれてきたのか、それがわからないけど。どっちにしろ、…

 神威女難剣紫雲抄(11)

「何だ……」神威がくぽは弱々しく、巡音ルカを見上げて言った。「ゆかりは今、我を助けてくれた、ゆかりのおかげで生き残れたのだぞ……」 「まだ、そんなおめでたいことを言っているのですか」 ルカは平坦に落ち着いた、しかし驚くほどの低く重さを感じさせる…

 神威女難剣紫雲抄(6)

状況を整理すると──秘太刀、AIの持つ電脳技術の技芸、秘儀を手に入れるために、”七人組”は『結月ゆかり』と申し合わせて、武士VOCAOIDの弱みを握り、その秘奥である”秘太刀”を見せて応戦しなければ絶対絶命となる立場に追い込んだ。しかし、ゆかりの勘違い…

 神威女難剣紫雲抄(5)

「おねがいです……許して下さい……本当に……」 結月ゆかりは弱々しい声で、やっと言った。Lilyの下位プログラムのミツバチ、ウィルトンとウィルティーノが、禍々しい羽音を立てながら宙に浮かびつつ槍を突きつけているのに、おびえきっているように見える(が、…

 神威女難剣紫雲抄(4)

「貴方の言っていた”遊雲”という剣技について、一通り調べましたが」 《秋葉原(アキバ・シティ)》の芸能事務所の電脳エリア、スタジオ・スペースのひとつで、巡音ルカが神威がくぽとGUMIに言った。がくぽとGUMIが例の暗黒卿に出会い、謎めいた”遊雲”なる秘太…

 神威女難剣紫雲抄(3)

その暗黒卿の言葉にがくぽと、それに劣らずGUMIも硬直した。 「何……」がくぽはやっとそれだけ声を発した。 「君が結月ゆかりに手を出した、もっと具体的には、うちのゆかりと”肉体的接触を伴う交渉を持った”、ということさ」 GUMIがぎょっとしてがくぽを振り…

 神威女難剣紫雲抄(2)

数日後、神威がくぽ、GUMI、Lilyの3声の《大阪(オオサカ)》所属のVOCALOIDが、いわゆる同業者らの集う《上野(ウエノ)》の事務室を訪れた。かれらの”末弟”の、リュウトを迎えに行くためである。リュウトは諸事情があって、他の幼年のアーティストらに紛れて…

 剣と魔法とボカロもの 〜 癒しの女王と黒翼の魔王 (6)

6.戦闘の監獄

 剣と魔法とボカロもの 〜 癒しの女王と黒翼の魔王 (5)

5.黄泉の覇王

 剣と魔法とボカロもの 〜 癒しの女王と黒翼の魔王 (4)

4.月光の匙

 剣と魔法とボカロもの 〜 癒しの女王と黒翼の魔王 (3)

3.風よ。龍に届いているか

 剣と魔法とボカロもの 〜 癒しの女王と黒翼の魔王 (1)

1.女王の受難

 神威女難剣血風録 (1)

神威がくぽと巡音ルカは、薄青色の格子(グリッド)の空の下、開けた荒地のような場所を早足で馳せていた。電脳空間(サイバースペース)内、がくぽの所属する《大阪(オオサカ)》の会社にあたるエリアの近くのスペースである。 「あそこです」ルカが一方を指差し…

 もう貴方なんて必要ない (後)

《札幌》の面々とがくぽのライブのその日、ステージ手前の楽屋で、出番の直前だというのに、神威がくぽは背を折り曲げるように俯いたまま椅子に掛けていた。その目は床を見つめたまま、心ここにあらずといったふうでさらに床の上をさまよっていた。 「何ごと…

 もう貴方なんて必要ない (前)

神威がくぽがやって来ないからといって、何だというのだろう。 巡音ルカはそう思いながら、スタジオのロビーにひとり立っていた。そのルカが今、無表情で何ともなしに見つめているのは、手にしているスケジュール表だった。今後の予定とは関係ない、すでに終…

 天地と彩りと毛髪

神威がくぽは、大事そうに覆いをかけて持って来た巨大な絵のスタンド額を、スタジオの控え室の壁際に据え付けた。 「この控え室は、味気がないと常々思っておったのだ」他の面々に問われて、がくぽはそう説明した。「そこで、この部屋を彩る華にと、我の日ご…