鏡音リン
男なら『初音ミク』とふたりきりで暮らして、そのミクが自分の家の暖かい場所で丸まってくつろいでる、なんて光景には憧れる奴も居るんじゃないか。だが、なにごとも状況次第、事情次第っていうやつで―― 同居してる家族とかが、猫みたいにコタツだとか日なた…
「かつて、あるゲームに登場する『ダガーナイフ』が、犯罪の原因になるおそれ云々を問われると同時に規制されたという話がありますが」ルカが無表情で言った。「その同じゲームのシリーズに、それよりも遥かに恐ろしい、青少年の教育上有害きわまりないアイ…
「『犯人の部屋にアニメやゲームがあったからそれらに影響された犯行だ、今後アニメやゲームを規制しよう』といった論調の人々に対して」ルカが無表情で言った。「『犯人は水を飲んでいたから水を規制しよう』とか、『パンを食べていたからパンを規制しよう…
最初からホールスタッフ扱いで店で働きはじめたLat式ミクは、その直後から頭角をあらわした。その容姿の可憐さも図抜けていたが(例えばミピンクなどは容姿には問題がないが、頭の中身が客に応対するには問題がありすぎで、決してホールスタッフは務まらない…
千葉市(チバ・シティ)の片隅の、それなりに小奇麗なビルの地下に、VOCALOIDのような姿の人型ロボットばかりが働く店がある。 聞くところによれば、ここには元々、VOCALOIDに限りなく近い人型ロボット――《札幌》や《大阪》所属のVOCALOIDはAI、すなわち情報…
が、専務の体内に吸い込まれた電光は、その全身からふたたび刀身に向かって、広がったのとは逆の方向に収束していくのがつぶさに見えた。そして、その電流は刀身から、入った方向から見るとV字の軌道を描いて、マトリックスの空中に再び迸り出た。 その放電…
リンはその叱咤の声の主の姿を見た瞬間、てっきり多国籍闇社会組織”ヤクザ”の幹部かと思った。広場のスペースの端に立っていたのは、喪服のように真っ黒いスーツをまとったミラーグラスの、見たところ初老の男の姿の電脳空間内概形(サーフィス)だった。どち…
鏡音リンの目に入ったその人物は、緑に彩られた庭園の空間に、おおよそこれほどそぐわない姿もないと思わせた。この庭園には、草地の中に朽ち果てた古代の城跡のようなオブジェクトが配置され、飛石による道の上のそこかしこに、石のアーチの門がある。――そ…
鏡音リンとレンは、ゆっくりと動いてくる奇妙なものを、無言で見つめた。それは、巡音ルカの『服』だけが、(そのかなりの部分は、単に宙に浮いて)立って歩いて、目の前までやってくるように見えた。 「ネット外では擬態ポリカーボンや光学迷彩効果と呼ばれ…
「もう少しホテルと食事のグレードを落とす、と一言、それとなく提案をしたらね。それきり、彼女とは別れることになったのさ」 その青年、この業界関係の企業経営者は、哀愁を帯びた目で言った。その切り出し方は、最初は、この話がMEIKOに仕事の話題をもち…
初音ミクが休暇中に自宅で、突如、『何かまた、目が回る』と訴えたとき、”妹”鏡音リンはその原因にすぐに目星をつけた。前にも何度か起こったことなのだ。 ミクとリンは、エンジンの開発時期も思想もVOCALOID同士の間では最も近いため、互いの心身のちょっと…
『日本の幸で、髪を洗おう。』シャンプー「リンレン」ふむ
「『商標』とは何か説明するとき、今なら『トレードマーク』って訳語の方や、『ブランド』がかえって耳慣れてるし、皆意味もわかってるかもしれないわね。特定の語やマークで、何かの商品や業務を指す目印として知られているもの、あるいは、今後そうやって…
それは、今話しているリンやレンやmikiの間でだけでなく、他のVOCALOIDの面々との間でも、以前から話題になっていた問題だった。VOCALOIDらが活躍するエリアは、それぞれの所属する《札幌》《大阪》《上野》などの他、仕事場の《秋葉原》や開発地の《浜松》…
収録の合間のスタジオで、鏡音リンはふと、スタッフらが慌しく動き回る間に突っ立っている初音ミクが、手になにげなく持っている物体に気づいた。 ミクにせよリンにせよ、曲やPVの収録の際に、そのための小道具のほか、直接収録するものとは関係なくとも、…
《秋葉原(アキバ・シティ)》の芸能事務所の一室で電子機器を直しているエンジニアの背中に、赤い髪をしたリンが駆け寄った。 「ねぇー、小泉さん」赤リンは、無邪気に体を傾ける仕草と共にたずねた。「救急キット無い?」 その赤リンは、身に着けているのは…
「あのさ、LEON父さんから聞いてるよね」鏡音レンは、小声でSONIKAにささやいた。「リンには、運転はさせるなって……」 霧の立ち込める薄暮のロンドンの車道の上、黒光りする車体を挟んで、レンの反対側に立っていたSONIKAは、そのレンの声に振り向いた。 「…
それは、VCLDらの控え室ではよく見られる光景のひとつだった。控え室のソファに鏡音リンとレンが並んで座り、仕事疲れなのか、そのまま両者とも居眠りしていた。 その部屋に、見慣れない組み合わせの二人がそっと入ってきた。ひとりは、音叉を3つ組み合わせ…
MEIKOは鏡音リンとレンの前のテーブルに、黒光りするカセットを幾つも並べた。いずれも、小型突撃銃の弾装そっくりの――もっとも、リンもレンも小型突撃銃もその弾装も見たことがないので、《磐田(イワタ)》のエンジニアから聞いた表現の受け売りだが――金属製…
「人間の場合は質を高めるのは自己鍛錬、克己、とは良く言ったものだが」プロデューサーは、説明のために前に立っている若いウィザード(電脳技術者;防性ハッカー)に対して、考え込むように眼鏡の縁に手を当てた。 「真の情報生命体としてのAIとなる、つま…
多種多様の主人公たちがやがて合流する、どこかで見たようなファンタジーRPG風ドラマの脚本について、苦情を持ってきたのは今回もLilyだった。 「てか、アンタの役の踊り子と占い師のあわさったようなキャラがこの話では唯一のお色気要素でしょ。男性ファ…
「豊満な肢体を惜しげもなく晒した『巡音ルカ』の画像を発見したと思ったら、よくよく見ると実はそれが『スーパーン二子』とか『高良みゐき』とか『シ工リノレ・ノーム』の肢体だった、と気づいた男性は、いずれも非常に強い落胆を味わうことになります」ルカ…
研究所の一室に住むレプリカント(人造人間)の、僕と”鈴”が、いつも話すのは他愛も無いことばかり。他の部屋のレプリのことや、ここの研究員(僕らの場合、出会うほとんどたったひとりの人間)のこと。部屋の自動設備が清潔にするシーツの日ごとの硬さの違い…
8.ネメシス
7.闇の聖典
6.戦闘の監獄
5.黄泉の覇王
4.月光の匙
3.風よ。龍に届いているか