馬車内の空気を引き立てるには

 多種多様の主人公たちがやがて合流する、どこかで見たようなファンタジーRPG風ドラマの脚本について、苦情を持ってきたのは今回もLilyだった。
「てか、アンタの役の踊り子と占い師のあわさったようなキャラがこの話では唯一のお色気要素でしょ。男性ファンを一挙に掴むチャンスじゃないの」MEIKOが脚本を見て言った。
「シナリオが薄すぎるのよこれ。この中でどうやって魅力をアピールしろってのよ?」日々、VOCALOID中でも人気キャラを目指すLilyにとっては折角の役柄が回ってきたその好機を、作品作りの粗で逃したくはないのだった。「そもそも、これじゃ話題で男性客を呼ぶことさえできないわよ!」
「純粋に演出その他の労力の都合。コラボ作品では往々にしてあること」格闘王女の扮装をした鏡音リンが低く言った。なお今回、リンの関わるシナリオはLilyのそれ以上に薄い。
「ならば、我に任せよ」Lilyを見かねたように、神威がくぽが口を挟んだ。「我の関わる部分を継ぎ足して、物語性を濃くしてみよう」
 そう言うがくぽの扮装は、中年戦士と中年商人と爺やのあわさったようなキャラのものである。
「……そのキャラをどう動かしたところで、『お色気要素』を補完できる流れが可能とは思えないけど」リンが静かに言った。
ホイミスライムのエピソードを入れることで充分に可能です」
 今回の役にはあたっていない巡音ルカが、突如、あたかもMEIKO同様に最初からそこにいたかのように唐突に口を開いた。言いながら差し出したその両手には、ルカ自身の頭部が激しくカリカチュアされたような、触肢をそなえた謎の生物がうごめいていた。
ホイミスライムが夜な夜な戦士に触手プレイを行っているうち、やがて両者の間には愛が芽生えてゆき、戦士の熱く白濁した愛を注ぎ込まれたホイミスライムは遂に人間になることができます」ルカが無表情で平坦に言った。「ちなみに、人間型になる場面では全裸がお約束です[要出典]
「それはいいけど、私のストーリーはどうなるのよ!?」Lilyが抗議した。
「てかお色気といってもいささか適切さってもんがある」リンが低くうめいた。