ピンクフィルタ


「豊満な肢体を惜しげもなく晒した『巡音ルカ』の画像を発見したと思ったら、よくよく見ると実はそれが『スーパーン二子』とか『高良みゐき』とか『シ工リノレ・ノーム』の肢体だった、と気づいた男性は、いずれも非常に強い落胆を味わうことになります」ルカが無表情で言った。
「”惜しげもなく晒した画像”ならそんなに落胆するほどじゃ……へぶし!」つぶやいた鏡音レンの鼻面に、リンの裏拳がめりこんだ。
「電脳”あいどる”としてのVOCALOIDは、ファンを落胆させるような出来事は防がなくてはなりません。しかし、ネットワークの情報エントロピーは増大する一方にあり、『初音ミク』の情報の拡散をどんな巨大企業(メガコープ)も抑えられなかったのと同様、『ン二子』等の画像の蔓延及び多様化を抑えることはできません」ルカが無表情に続けた。「ですが、男性の側にとってどんな女性の画像も、どんなによく見ようとも『巡音ルカ』に見えるようになれば。つまり『目に入る女性がみんな巡音ルカになれば』、決して落胆することはなくなります」
「いや、そのりくつはかなりおかしい」リンがうめいた。
「そこで、このフィルタを開発しました」ルカが無表情で、紙製フレームにピンク色のセロファンを張った、雑誌付録の立体眼鏡のようなフィルタを取り出した。「男性がこのフィルタを通して見ると、それらの女性の姿に微修正が加えられ、全員『巡音ルカ』に変換されて見えるようになります」
 レンがそのフィルタの輪ゴム部分を両耳にひっかけて装備し、ルカと、ついでリンを見た。
「何も変わらないよ。リンにしか見えない」
「それは、男性側が元々『巡音ルカ』と混同しそうな女性を見たときでないと変換されないからです」ルカが冷静に解説した。
「混同しそうな……」レンがフィルタごしにルカとリンを見比べ、「あ、そっか……『豊満な肢体』か」
 唸りを立ててレンの頭頂にリンの拳がめりこんだ。
「燃やせ。こんなフィルタは全部燃やせ」リンがルカに叫んだ。