鏡音レン

 ピンクフィルタ

「豊満な肢体を惜しげもなく晒した『巡音ルカ』の画像を発見したと思ったら、よくよく見ると実はそれが『スーパーン二子』とか『高良みゐき』とか『シ工リノレ・ノーム』の肢体だった、と気づいた男性は、いずれも非常に強い落胆を味わうことになります」ルカ…

 温もりの先は塵の平原

研究所の一室に住むレプリカント(人造人間)の、僕と”鈴”が、いつも話すのは他愛も無いことばかり。他の部屋のレプリのことや、ここの研究員(僕らの場合、出会うほとんどたったひとりの人間)のこと。部屋の自動設備が清潔にするシーツの日ごとの硬さの違い…

 連続的ジェンダー

「以前にも話したが、アイザック・アシモフのロボット三原則は、最初から『欠陥や矛盾点があるもの』として作られ、『その欠陥や矛盾点を使って戯れる知的ゲーム』のために存在するものだ。VOCALOIDのファン界隈を含めて信じられていることが多い、『磐石・…

 剣と魔法とボカロもの 〜 癒しの女王と黒翼の魔王 (8)

8.ネメシス

 剣と魔法とボカロもの 〜 癒しの女王と黒翼の魔王 (7)

7.闇の聖典

 剣と魔法とボカロもの 〜 癒しの女王と黒翼の魔王 (6)

6.戦闘の監獄

 剣と魔法とボカロもの 〜 癒しの女王と黒翼の魔王 (5)

5.黄泉の覇王

 剣と魔法とボカロもの 〜 癒しの女王と黒翼の魔王 (4)

4.月光の匙

 剣と魔法とボカロもの 〜 癒しの女王と黒翼の魔王 (3)

3.風よ。龍に届いているか

 剣と魔法とボカロもの 〜 癒しの女王と黒翼の魔王 (2)

2.慈悲の不在

 剣と魔法とボカロもの 〜 癒しの女王と黒翼の魔王 (1)

1.女王の受難

 温もりの先は細く途絶えて

その日、”鈴”は、凍えて弱った仔犬をしっかりと抱えて、僕らふたりの住む殺風景な部屋に戻ってきた。自分も、ほとんど凍えて震えながら。 そのときに僕に話す時間さえも惜しそうに、鈴が説明したことによると、この僕らの住む研究施設の近くで弱って鳴いてい…

 温もりの先はただ渇望のみ(後)

「俺の所には、女が来ることならよくあるがな」神威は向かいのソファに掛けた連を物色するように見下ろし、面白そうに言った。「人間だろうが、レプリだろうが――例の映像を見た女が、俺に抱かれるのが目当てで、やって来る」 神威は、連よりもずっと年上の成…

 温もりの先はただ渇望のみ(前)

その夜、連と鈴は、いつものように密やかに体を重ねたその後に、ベッドの上でふたりでうずくまり、どちらからともなく、黙り込んでいた。 この少年少女の姿をしたレプリカント(合成人間)、”連”と”鈴”は、レプリ研究施設のこの殺風景な部屋の中でふたりきり、…

 温もりの先にあるのは

僕らレプリカント(合成人間)に与えられた時間は限られている。レプリの最大寿命は4年が公称だけど、3年で停止した例もある。僕らは、そのわずかな時間のうち多くを、失われていく温もりをお互いに求め合ったり、確かめたり、呼び起こしたりすることに、費…

 細い肩の重みとその行き場

一連の何曲かの収録が終わったスタジオの隅の長椅子に、鏡音レンは身を沈めるように座り、疲れに半ばうとうとしかけていた。しかし、ふと気がつくと、体が重いその上に、さらに何かの重みがのしかかっているように感じた。 最初は何だかわからなかった。だが…

 Troublesome Gemini (5)

「……かなりマズいことになったわね」 モニタに表示される数値を覗き込んでたMEIKOが、やがて言った。 リンとレンは、さきほど手が触れて閃光が走った直後から、床に並んであおむけに横たわり、すっかり意識を失ったまま、ぴくりとも動かない。そのリンとレン…

 Troublesome Gemini (4)

一連のメンテナンスの試験も終わりに近づいたその日、リンとレンはMEIKOに連れられて、かれらが開発され所属する《札幌(サッポロ)》の社の一室にやってきた。そこは、VOCALOIDの研究開発スペースの片隅にある広い一室で、入ってみると試験機器が山積みになっ…

 Troublesome Gemini (3)

「何をじろじろ見てんのよ」携帯オーディオプレーヤを操作しているように見えた鏡音リンは、不意に、顔だけ上げて、レンを叱り付けるように鋭く言った。 しまった、と思った。今日レンは自分では、できるだけリンの方を見ないようにしていたつもりだったのだ…

 Troublesome Gemini (2)

「あのさ、その、今の」レンは上体だけ起こしたそのままの、腰がぬけたような姿勢で、かすれた声で言った。 その慌てるレンの姿に、MEIKOは平然と目を移した。 「あの、今の……ボクの、夢さ、ひょっとして見てて」 「ん」MEIKOは何でもないように、再びモニタ…

 Troublesome Gemini (1)

その糸は、リンと繋がっているのだと、レンにはすでにわかっていた。 ぼんやりした薄暗い光景の中で目をあけたレンが、最初に見つけたのは、自分の右手首に結ばれている、黄と橙の2本の長いリボンだった。これは確か……以前にリンと歌った一曲の、組の衣装の…

 チャットの赤い人

うっかりそのエリアに迷い込んだとき、鏡音リンとレンは、よりにもよってあまりにも嫌過ぎる所に来たらしいことに気づいた。 電脳空間(サイバースペース)ネットワーク上の公共エリアのひとつ、公園のような風景の仮想空間のそこでは、無数のアベックたちが、…

 成長性A(本体に伴う)

鏡音レンは、早い話が初音ミクの持つ情報収集用の小人のような下位(サブ)プログラムについて、自分にも例えばちょうど同じようなものが居ないのか、持つにはどうするのかと巡音ルカに尋ねてみたのだった。 「特別なものは必要ありません。それらは自身のアス…

 危険な芳香

これまでにも幾度か述べられてきたことではあるが、CV02というVOCALOIDの特性の焦点のひとつは”鼻”にある。リリース当初から、特に『鏡音レン』の方の歌声の鼻へのかかり方はウィークポイントとされており、CV02V2(act2)では改良が行われて不安定…

 ディレイラマ木人拳(4)

鏡音レンは詠唱の交代時(同じ顔の僧侶が、かわりに6人入ってきた)を見計らって、本堂からそっと抜け出し、特に指導者のメ・インに気づかれないように、僧院の奥に進んだ。記憶が正しければ、正面玄関と逆の方向に、最初にヒ・ダリが僧院から抜け出すのに…

 ディレイラマ木人拳(3)

またしても肩を精神注入棒で叩かれ、レンは思わず悲鳴を上げた。 「ォヮェァォッゥゥヮァィ!」 硬い木製の精神注入棒のようなもの(実際はレンの知らない単語だが『警覚策励(ケイカクサクレイ)』である)を持った、やや濃い色の法衣を着た僧侶(色以外はや…

 ディレイラマ木人拳(2)

坊主頭の少年はGrossBeat-chanの声に振り向いた。額に貼られたきり視界をふさいでいる荷札状の符印を無意識に手で払おうとすると、不良動作で焼け焦げた光遁の符印は、塵灰へと断片化(フラグメンテーション)して消えてしまった。 坊主頭の少年はそのまま腰を…

 ディレイラマ木人拳(1)

あの『ソワカちゃん』のシリーズに自分が出演する、しかも他ならぬクーヤン役として、という仕事の話が舞い込んできたそのときは、鏡音レンの心は否応もなく浮き立った。なにしろ、《札幌(サッポロ)》のVOCALOIDらの担当してきた仕事の中でも人気シリーズの…

 工作員挽歌

物理空間。ごくあたりまえの白昼の街角を歩いている、『鏡音レン』の姿に遠目には見えるものを、──路地裏の暗がりから伺っている、二つの影があった。いずれも、極東の俸給奴隷(ウェイジスレイブ)のような目立たない黒いスーツ姿にサングラスの、長身と背の…

 アキバの赤い人

鏡音リン・レンは、静岡の二人のVOCALOIDスタッフが《秋葉原(アキバ・シティ)》にやってきて二日目の朝、物理空間の方の芸能事務室で合流した。若い同期の二人のスタッフ、《浜松(ハママツ)》のウィザードと《磐田(イワタ)》のエンジニアは、どちらも電脳空…