亞北ネル

 カップ焼きそば名産現象

「ぺヤングとゴキブリがどうのという巷の事件のせいで、『初音ミクのあのぺヤングのコラボ歌がどうの』とか騒いでいるVCLDファンたちがいるんですけど」東北ずん子が、長い黒髪と和装を振り乱すように、鏡音レンの方に身を乗り出した。「でも、《札幌(サッポ…

 Aターン

こんな用語があったとは。知った瞬間、ドゴォーン→ヒカシューのホーミーと「トゥァヌェグァナム」のコール→続く西城ヒデキの歌声が自動的に再生されるのはデフォルト。晴れ舞台への憧れ・渇望と背中合わせの郷愁・スローライフに後ろ髪(サイドテール)を引…

 いくつか準備IV

 超駅最低員

キャラ乱立のこの今の世に、キャラ記号としてはたいして共通しているとも思えないアイ・テノゴールがどうしてネルに見えてしまったのか(1) 髪のボサボサ感 (2) 色の置き方が、髪や服が薄く、肌が分厚い (3) スタイルが悪いわけでもないのに、露出度…

 お約束

亞北ネルは工作員である。二束三文のバイト料で、名も知らされない巨大企業(メガコープ)のために、様々な意味でぎりぎりの線の行為に手を染め、何かの拍子で切られることが前提の、使い捨て要員である。そして今のネルは、その危険な線でも最たるもの、”VOCA…

 サイドテール

ついに『幻夢戦記レダ』という大役中の大役の声がかかるが凹凸が足りなくて理不尽にデビューを逃すという電波を受信

 「ナモミハギの人」「ナモミハギSS」「ナミモハギ」とかで検索してくる人がきっちり3か月ほど前からじわじわ増加中

なにごと

 工作員挽歌

物理空間。ごくあたりまえの白昼の街角を歩いている、『鏡音レン』の姿に遠目には見えるものを、──路地裏の暗がりから伺っている、二つの影があった。いずれも、極東の俸給奴隷(ウェイジスレイブ)のような目立たない黒いスーツ姿にサングラスの、長身と背の…

 せめて君だけのヒロイン(後)

「その、ナ……ナミモ……ナハモミ……ナハミモギ仮面が、いったい、何の用だっていうんだ」長身の方の黒服の男が、かなり上ずった声で言った。 「”鏡音レンのファン”がやることは、ただひとつ──」 ナモミハギ仮面が、そのGENを上げた鏡音リンに似た、艶と深みのあ…

 せめて君だけのヒロイン(前)

「……何の用だよ?」鏡音レンはその声も、見上げるその表情も、できるだけ強がろうとしていたが、いずれの中にも当惑を抑えきることはできなかった。 電脳空間(サイバースペース)ネットワークの片隅の薄暗い路地裏のエリアに、懐疑を覚えつつ呼び出されたレン…

 パワーシンガーは急に止まれない(6)

亞北ネルが少年を背負って歩み入った街は、人気(ひとけ)がないというわけでもないが、何か異様に静まり返っていた。何が異様な点なのかはすぐにわかった。商店街なのに、何がこれほど静かなのか──音楽が一切、聞こえてこないのだ。街で聞こえる音楽にも期待…

 パワーシンガーは急に止まれない(5)

それから幾日か、少年は音楽を聞くうちに、次第に反応を返すようになってゆき、やがて少年は亞北ネルが問えば、まだ感情の抑揚を伴わない声で、自分のことをぽつぽつと答えるようになった。しかし、どのみち大したことはわからなかった。なぜあんな所に入っ…

 パワーシンガーは急に止まれない(4)

滝のように降り続く豪雨が、崩れかけた廃ビルを、その風化を加速しようとでもいうように、容赦なく叩きつけていた。 水滴の流れ落ちる天井だけでなく、割れたガラス窓から雨水がわずかに降り込む一室で、亞北ネルは非常用蛍光灯の明かりを頼りに、かしいだ事…

 パワーシンガーは急に止まれない(3)

「リンの出生の秘密」MEIKOは一旦重々しく口を開いてから、改めて弟妹らを見回して言った。「……みんな、『双星が育てば天がふたつに割れる』という諺は知ってるわね」 誰も知らなかった。 「あれはまだ、リンのAIを覚醒させる前、基本構造の構築中の頃だっ…