東方の邪教


「かつて中世の西洋の歴史家は、”ジパング”の人間らを、『偶像崇拝を行い悪魔的な信仰を持つ者達』と、畏怖ながらに書いていたことがあります」
 自身はドルイドのダークアートの心得をもつ巡音ルカが、まるで他人ごとのように言った。
「かれらにとって、ジパングのそれはどういうわけか、東洋の他の文化に比べてすら、得体の知れないものであったようです。その崇拝対象の神仏混合も、慣習であって信教ではないその崇拝形態も。――けれど、それは何も過去の話ではありません。現代に至っても、むしろその傾向は拡大していく一方です」
「何の話か当ててみよう」GUMIがルカを指差して言った。彼女はルカの言葉を、まともに聞いて理解するものではなく、あてずっぽうなナゾナゾとしか捉えていない。「フィギャー萌えだとか?」
「それもありますが、得体のしれない代物のその極め付けが、人物像(キャラクタ)であり”あいどる”であるVOCALOID、という崇拝対象であり、それを『天使』だの『女神』だの、この島国の人間の大半がそもそも本来の意味がわかっているわけがない語で軽々しく呼称する、という崇拝形態です。東西の聖者のいずれもが糾弾した、欺瞞の偶像崇拝以外の何でもない、それこそが――まったくもって、『悪魔的な信仰』というのもまだ生ぬるい代物と言えるでしょう」