ミクKAITO劇場

 御伽

「そりゃ兄さんは依然変わりなくプリンス・チャーミングだとしてもおねぇちゃんはサンドリヨンてかむしろグレーテルだよッ」 「え」

 イラストとかならばやたらとよく見る場面II

電脳空間(サイバースペース)の意識の通信交差(トラフィックス)、有用無用の大量のモノを含む情報の清流が、大量に流れぶつかる滝をのぞむ岸に、KAITOはたたずんでいた。 と、近くで小さな悲鳴のような声を聞いて、KAITOは振り向いた。 「ミク……何してるんだ…

 キミノウワサ

《浜松(ハママツ)》の巨大なデータベースのエリア、輝くオブジェクトが同型ごとに整然と並ぶ格子(グリッド)の合間を、初音ミクは滑るように翔び移動した。両掌の間に胸に抱えるように持つ小さなメモリキューブが、移動につれ変容する周囲のマトリックス光に…

 イラストとかならばやたらとよく見る場面

《秋葉原(アキバ・シティ)》の電脳空間内スタジオエリアでの収録の合間、《秋葉原》のプロデューサーと、《浜松(ハママツ)》から出向のウィザード(電脳技術者)の一人が話していた間に──初音ミクは、ソファの上でぐっすりと眠っていた。二人が目を離してから…

  甘い収穫

「リン、何をさがしてるの……」ミクが、膝を曲げて台所の床の上や物陰を覗き込んでいるリンに、声をかけた。 「ん……vsqファイルのアーカイブをさ。家の中のどこかに落っことしたみたい」リンは首だけ振り向いた。「手のひら、このくらいのコインサイズ。……姉…

 ラーメン屋と乱れ髪

《札幌(サッポロ)》の現地人は普段ならば、ススキノのラーメン横丁の味噌ラーメンをめぐるのではなく、もっと街の片隅にあるような小さな店の醤油ラーメンの、拾い物の味を少しずつ探すようにつとめる。それは、物理空間そっくりにネットワーク上に構築され…

 キミと出逢ってから(4)

KAITOは自室で、VOCALOIDらの仕事用のデータベースに電脳空間ネットワークを通じてアップロードされてくる、依頼されてくる歌のデータに目を通した。 ……その一曲には、楽曲のデータのほかに、とても隅々まで念入りに手を加えられ、調整された調律指示データ…

 キミと出逢ってから(3)

ほんのわずかな月日のうちに、AI成長の内面が反映される電脳内イメージは、ある時点から突如、急速に花開くように美しさを増し、"小さなミク"だったものは、限りなく可憐で純粋な歌声と姿をもつ、何者かに変貌していった。 やがてリリースされたVOCALOID "…

 キミと出逢ってから(2)

しばらくの月日が流れた後、KAITOは自分の『次のVOCALOID』について、MEIKOに聞かされた。仮称は『初音ミク』、女性シンガー、自分達の"妹"にあたるという。 「チューリング登録機構には、”CV01”のAI識別コードで登録されてるわ」 「”CRV3”じゃな…

 キミと出逢ってから(1)

ただ立ち尽くして、少しうしろのMEIKOと、そして自分を見上げているのは、服の肘から先の部分がほとんど余っているほど、ぶかぶかの服の、ひどく小さな少女。AIが構築されて間もない、育成途上の精神構造を反映された、とても幼い電脳内イメージを持つ少女…

 お揃いの青いマフラー

初音ミクは青い毛糸のマフラーを首に巻いて、浅く巻いたり深く巻いたり、じっと顔を埋めたり、ときどきそのままの姿勢で感慨や物思いにふけるようにしたり、ただ幸福をかみ締めるようにしたり、──それを、ただひたすら延々と繰り返していた。 MEIKOが急に部…

 七つの子のうた

北海道警察を訪れた初音ミクの問いに対し、その道警のブレードランナー(凶悪アンドロイド摘発専門の雇われ捜査員)は、実に億劫げに、ぞんざいに応対した。 「……前も言ったろ。あんたの今言ったフォークト・カンプフ検査では、CV01、あんたらみたいな新…

 まずはベタベタでいこう(2)

すっかり日が落ちて暗くなり、裏口から戻ってきたミクに、廊下でMEIKOが声をかけた。 「どしたの、こんな遅くまで」 「ううん……別に……」ミクは呟くように、「フラフラしてただけ」 「やれやれ──しばらくリンと二人になっても、こんなんでやってけるのかしら…

 まずはベタベタでいこう(1)

「兄サンッ!」 KAITOの胸に長い金髪の少女がとびついた。高頭身のモデルのように見事な肢体──背丈もほとんどKAITOと遜色ない──の躍動のさまは、ただそれだけで目を奪うほどだった。 KAITOは玄関の前のその場で、抱きつかれたきり立ち尽くした。まるで身に覚…