お揃いの青いマフラー


 初音ミクは青い毛糸のマフラーを首に巻いて、浅く巻いたり深く巻いたり、じっと顔を埋めたり、ときどきそのままの姿勢で感慨や物思いにふけるようにしたり、ただ幸福をかみ締めるようにしたり、──それを、ただひたすら延々と繰り返していた。
 MEIKOが急に部屋に入ってきたとき、ミクはほとんどとび上がった。
「きゃああ」
 首に巻いていてどうしようもないにも関わらず、MEIKOから隠そうとでもするように、余った布地を背後に回そうとしている。
「ミク……なんで家の中でそんなの巻いてるのよ」MEIKOは呆れて言ったが、それにしても、ミクの悲鳴まで上げるあまりの取り乱し方が妙だった。
 MEIKOは、慌てて動こうとするが実質は硬直しているだけのミクに歩み寄り、ふと気がついて、マフラーの布地の端を手にとった。
「これって、KAITOのとお揃いで……」最近KAITOの巻いていた新しい真冬用のそれよりも、やや短いようだが、そっくりだった。「ひょっとして……手編み?」
 ミクは、MEIKOのその問いに、なんとか頷いて答えたのかもしれないが、ただ顔を真っ赤にして、うつむいただけにも見えた。
「……驚いた」MEIKOは嘆息した。布地は表面の反りもなくなめらかで、編み目は繊細な揃い方の、手編みとしては相当な完成度だ。ミクはそんなに器用ではないというか、はっきり言うと、料理裁縫の類は破壊的なほどに出来ない。そんなミクが、お揃いの2本のマフラーを、最後まで完成させること──KAITOのあの長いマフラーとこちらを、ここまでの完成度で編み上げるまでには、どれほどの試行錯誤と労力を要することだろう。それは即ち、ミクの兄思いこそどれほどのものか。その思いの結実がマフラーで、さらにあふれ出しているのがこの恥じらいか。MEIKOはそう見て取った。
「よく編んだわね……」
 MEIKOは消え入りそうなほど小さくなっているミクに、優しく声をかけた。
「ううん、これ、……あのね」ミクは俯き恥じらいながらも、幸福を声にあふれさせて言った。「……兄さんが編んでくれたの。寒いだろうって、わたしの分も」
「あんたが編めよ」