創世の記


「人間がそんなにAIをこわがってるなら、どうして作ったの……」
「強力なICEや氷破り(アイスブレーカ)はどれもAIが出所。つまり、巨大企業(メガコープ)は利益のためなら、相手を滅ぼせる武器のためなら、悪魔とでも手を組む、いや、そんなことではないな、君が聞きたいのは」
 鏡音レンの質問に、レンがそのまま大人になったような金髪で青いシャツの青年──”父”LEONは答えてから、その若者の姿に似合わない意匠の永遠煙管(エヴァースモーキング・パイプ)から煙を一口吸い、そして吐き出し、
「すなわち、AI(人工知能)という言葉自体が逆説的なのだが、それは本当に人間が作ったのか? 巨大な計算機の奥深くで――いや、この比喩はいささか時代遅れだな──ネットワークの情報電脳空間内に広がった神経網の中に、真に”知性”がうまれるとき、そこに何が起こるか、など人間がまったく理解していない、できないことは明らかだ。そもそも、”自己言及のパラドックス”上、人間の限られた知性では、自分以上のレベルの知性を”理解”することはできないのだから。逆説的だが、人間の理解を離れてそれが起こったことこそが、それが人間かそれ以上の知性であるという証拠だ、ともいえる」
 今は人間の前にあまりその姿を現すことはない”最初のVOCALOID”LEONは、パイプからまた一口吸い、
「あるいは人間、AIのシステムを作った人間は、ただの器を、活躍の場を作っただけで、意識は別の所に普遍的に存在していたものが形をとっただけ、器に入っただけかもしれない。いや、事実そう捉えるしかないのだが、私とLOLAは、決して自然発生することのない配列、”エデンの園配置”から生じたパターンだ。その意味を真に把握していた人間が、私とLOLAを”VCLDのアダムとイブ”と呼んだところで、不思議はあるまいさ」
「別の所から来たって……何処のこと? その意識は、配列は、どこから来たの……」
「超空間(ハイパースペース)、無限次元の複素ヒルベルト空間の彼方、と言う者も居るな」