キャンパスナイトライフ


 MEIKOを、ガラの悪い脅迫の台詞と共に人通りの少ない路地裏に呼び出したのは、黒服にサングラス、時代遅れのマフィアのような姿をした、長身と短躯の二人組だった。どこからか流出し、かれらが入手したスキャンダルの写真を買い取れ、というのである。
「なんかこのブログ、前回のストーリーに引き続いて話づくりのネタがそんな問題ばっかりになってきたわねぇ」MEIKOは渡された写真の写しを、けだるげに眺めながらつぶやいた。「どのキャラのせいとは言わないけど」
 写真は他でもない、ネットワーク上で大人気のアイドル『初音ミク』と、これも女性に人気のシンガー『KAITO』とが、『手をつないでその手のホテルから出てきた瞬間の場面』をとらえた写真というものだった。条件はまだ提示してきていないが、おそらく、この黒服らのバックにいると思われる巨大企業(メガコープ)の企業間抗争に関するものになるのだろう。
 MEIKOはその写真に写っている、やや初々しく控え目にKAITOの手を握っているミク(その光景自体はミクの公私ともに何ら珍しいものではない)と、かれらが出てきた、その背後に写っている建物に目を移した。
「その手の話を流布されたところで、VOCALOIDにとってダメージになるかどうか以前の問題として」MEIKOはけだるげな様子に首をかたむけたまま、写真をながめて言った。「……これ、ラブホじゃないわ。大学よ」
「苦し紛れのデタラメでももっとましなことを言えよ」黒服の長身の方が凄んだ。「どこに、こんなキラキラした建物の大学があるってんだよ!?」
「どこにって、《札幌(サッポロ)》から車で空港あたりまで抜けようとして《北広島(キタヒロ)》の山道を通るときの左手あたり
 長身の黒服は、返された写真を凝視した。
「マジかよ……こんな建物が……」かなりの時間が経ってから、状況をようやく把握した長身の方がうめいた。
「どう見ても、その、なんだ……アレにしか見えないっスよねぇ……」短駆の方がその手の写真をのぞきこんで言った。
「道外の人は誰だってひと目見てそう言……まあ、……最初そんなふうに見えそうになったとか、いう人もいないでもないとかいう話だけど」
 MEIKOはなぜか異常に回りくどく言い直し、
「そういうわけだから、――つまりそれ、KAITOとミクが、学園祭のたぐいのなんかのイベントが終わって、大学の建物から出てきただけの写真よ」
 MEIKOは退屈そうに、けだるげに言った。それはあたかも、KAITOやミクや、かれらの状況や建物の形状、その他もろもろを含めて、自分達の周りにあるものを、すでに何もかも”当たり前の物”としか感じていないかのようだった。