ホラー場面を引き立てるには

 ホラー動画の収録のために渡された脚本に対して、MEIKOに抗議してきたのはやはりLilyだった。そのLilyの配役の、冒頭でコギャル語(死語)のむかつく台詞を喋った後、剣道マスクのスプラッター殺人鬼(演:VY2)に真っ先に惨殺されるというその役回りについてだった。
「なんか悪意を感じるんだけど」一日でも早くVOCALOID中でもスターの座にのしあがりたいLilyにとっては、この電子芸能活動の連日、それに反するような配役ばかり回ってくることに、苛立ちがあるようだった。
「いや別に。どの役も同じようなもんよ」MEIKOが脚本を見てそっけなく答えた。「どうせこの話、イヤボーンで殺人鬼を爆死させる幼女(演:歌愛ユキ)ひとり以外、結局全員殺される役なんだから」
「けど、最初のコレって……」
「ならば、その役はLilyのかわりに、我が引き受けよう」神威がくぽが言った。
 皆ががくぽを振り向いたまま、しばらくの沈黙がおりたが、
「……いや待った」しばらくして、MEIKOの隣から鏡音リンが言った。「そのコギャルを無造作にがくぽに入れ替えたら、脚本の辻褄が合わなくなると思うんだけど」
「問題ありません」不意に隣に現れた巡音ルカが、無表情で言った。「その場面は私も一緒に出るように差し替えます」
「何がどう問題がなくなるっての」リンが低く言った。
「冒頭の場面でアオ○ンしていたリア充の男女が真っ先に殺される、というのは、スプラッターホラー映画の鉄壁のセオリーです[要出典]。私とがくぽが冒頭でその役を演じる脚本に差し替えれば、何も問題は生じません」ルカが無表情で平坦に言った。
「要はがくぽとア○カンする役さえできれば、あとはモブで最初に殺される役だろうが何だろうがどうでもいいとでも……いや……聞くだけムダだった」リンは頭を抱えた。