サービス画面を引き立てるには

「次の仕事は『女湯全員集合画像』の収録です」巡音ルカが無表情でMEIKOに報告した。「いわゆるハーレム物の漫画などならしじゅう扉絵になっていたり、そうでない作品でもどれかが毎月のようにアニメ誌に載っていたりするアレです」
「まさにアレね。で、何か問題あるの?」MEIKOが、ルカの持ってきた企画書を眺めながら言った。「いや問題どころかこれ以上何も考えることもない頭の悪い企画のような気がするけど、わざわざ決定するようなことが何かあるの?」
「一つだけあります」ルカが平坦に言った。「この手の集合サービス画像では、湯気や泡や反射が大量発生する中で、なぜか隅の方に小さく、一人くらいやけにサービスが多い、例えば最低限の湯気だけで仁王立ちとか生尻サービスとかしてるキャラが混ざっている、というのが定番です。それを誰にするかということです」
 MEIKOは、その場に極東全社分が全員集まっている女声VOCALOIDの面々を見回した。
「Lilyね」MEIKOが不意に目を止めて、そっけなく言った。
「なんで!?」Lilyが叫んだ。
「ものすごくなんとなく」MEIKOが言った。
 ルカがうなずいた。「ものすごくなんとなく、で出てくるような人こそが、その位置に適任かと思われます」
 Lilyは片眉だけ上げたまま黙り込んだ。
「やること自体は他の面々と大差あることではないのですが」ルカが無表情で、Lilyを見つめて言った。「その上で、地味にファンを増やす機会にもなるかもしれません」
「いや、片隅の方でそれって、徒に画面を引き立てる貧乏クジってやつじゃないのかしら」Lilyがつぶやくように言った。
「そういった不満を述べますか。プロのアーティストなのに」
 Lilyはルカのその言葉にぐっと表情を引きしめてから、「いやプロだから受けるってことになれば腹をくくるけど……そのための主に心の準備とかあるでしょう!?」
「我が引き受けよう」
 と、そこで神威がくぽがすっくと立ち上がって言った。
「まあ……かわってくれるんなら……それはだいぶ気が楽だわ」Lilyがほっとしていった。
「Lilyは新参ゆえ、些細な事柄でも慣れないということも多々あろう。助けるのは当然のことである」がくぽは真摯な目で言った。
「あのさ」鏡音リンが口を挟んだ。
「何だ」がくぽがリンを振り向いた。
「最初から物凄く突っ込みたいところは沢山あるんだけど」リンは頭痛をこらえるように、こめかみに指を当てて言った。「がくぽがなんでここに……なんでその集団絵にがくぽが写ることに……てか……なんで”女湯”にがくぽも入ってるって話になってんの!?」
「私はがくぽが入っていても構いません」ルカが無表情で言った。
「構えよ」リンはぴしゃりと言った。