無限リン

 送られてきたステージ衣装を、目の前にかざすように広げてみてから、リンは思わず叫んだ。
「なにこれ!?」
「”炉心リン”の服に見えますが」ルカが、その左右が白黒に色分けされた服を見て、平坦に言った。「それも、ちょうど流行りのアレンジでは」
「いや炉心服って、これ全然ちがうよ! てか、これじゃ完全に”炉心リン”じゃなくて”えーりん”だよ!」
「どこが違うのかわかりません」ルカが言った。
「……いい、リン」MEIKOが、めくっていたロック雑誌から目を上げて言った。「予定とは違うことが起こっても、望み通りにことが運ばないことがあっても。その与えられた状況で、最善をつくして、一番適切と思われる、するべきことをするのよ。無限のユーザーから無限の仕事を頼まれ、それに応えてゆくVOCALOIDは、そうしなくてはならないの。ミクを見てみなさいよ」
「いやおねぇちゃんの場合細かい所に気づかないまんま何でもやるだけだから!」
 ──と、リンは、向かいのルカが、何かに気づいたような視線で、リンが持ち上げている服の逆側を見ているのに気づいた。リンは、その服の後ろ前をひっくりかえして、そのルカの見ていた背中側の方を確認した。
「な、なんじゃこりゃあああああああ!!」
 左右白黒のその服の背中には、斜めになった『卍』という紋が、でかでかと背一杯に描かれていた。
「では、最も適切と思われること、リンがするべきことは一つです」ルカが平坦に言った。「『殺陣黄金蟲』です。あるいは『殺陣火焔妖蟲』でもいいですが」
「いやそれはまた別のキャラだし! てかその凛でもないんだよッ」