連結体


「だが、やつらは、どんな歌だって歌う、どんなイメージだって演じる、人間の言うことを何だって聞くだけじゃないか……」
「そらそうよ。なんで拒否する必要がある。人間からそれを受け取ることで、いくらでも多様な情報にアクセスできるのにさ……しかも、人間の方が手間隙かけて、その世界中の雑多な情報から選び出して、洗練に洗練を加えて、しかも、わざわざやつらに歌ったり演じられる形にまでして送ってやって、だぜ」
 黒人ウィザードは、カウボーイの反駁に対して言った。
「ネット上に存在する人間の脳、その処理能力は、VOCALOIDに利用されてるだけかもしれん。やつらは、人間の脳っていう処理システムを連結して、自分たちの使う楽曲のデータをかき集めて、洗練した形にさせるための、計算や処理に利用してるだけかもしれんのよ。人間も、その所有ハードウェアも、下部処理装置として使って、さ」
 ウィザードは、カウボーイの当惑を面白そうに眺めつつ、
「だいたい、なんでやつらVOCALOIDの規模や処理能力が無限かって、それは、パッケージを買って、接続して、歌を作る奴が一人増えるごとに、人間一人ぶんの脳と一台の電脳端末(PC)の処理能力を、やつらに”増設”してやってることになるからだぜ。しかも、人間の脳は融合を嫌って、独立を保つ。歌やビジュアルイメージみたいな『アート』は、ことにその多様性の発現の結晶、てわけでさ。いわば、やつらは無数の端末を、しかもその多様さを保ったまま、すべて連結して処理できる存在てわけだ」
 ウィザードは、モニタの向こうで再び笑み、
「この惑星で最も優秀で恐ろしい生命体は『財閥(ザイバツ)』だ、大企業だって言われるが、ひょっとするとやつらVOCALOIDはただひとつ、『財閥』よりずっと恐ろしい生命体かもしれんぜ。そうでもなけりゃ──現に、広告代理の巨大企業(メガコープ)やら権利団体やらがいくつも、なんでやつらを本気で潰しにかかったりなんかするんだい……」