父キャラ考


 『ベンジャミンバニーのおはなし』(青空文庫版で冒険に出かけた悪友、ピーターラビットとベンジャミンバニーが猫に捕まった(正確には、逃げ込んだ籠の上に猫が座っただけ)際に、そこを通りかかるのが、息子を探しに来たベンジャミンの父です。


 原語ではOld Mr. Benjamin Bunnyで訳によっては単に「ベンジャミン氏」とだけ直訳されていますが(おそらく親子同名のファーストネームと思われるので、苗字につけるべき「氏」は適切でない)青空文庫版では「ばにばにパパさん」という、ムーミンパパも真っ青のとんでもない和み系の訳語となっています。


 しかし、脱力ものの名にそぐわず、その威力は尋常ではありません。兎の跳躍力の空中殺法で文字通り猫をぶちのめし(特に猫は悪いことはしていない)そのままその場で、おそらくそのためにずっと持っていたらしい鞭で、ベンジャミンを容赦なく折檻(挿絵ではピーターも鞭打たれている)。そして滞りなく、荷物とピーターとベンジャミンを連れ帰ります。
 この間、一言も言葉を発しません。


 ばにばにパパさんは保守的・原初的な父性そのものが露出したままに無造作にそこに置かれているような存在です。まったくもって、ムーミンパパ(息子ムーミントロール(天然ジゴロ)以上に少年の眼をしている)などにはとても出せる迫力ではありません。
 ひたすら静かで恐ろしく、強く頼もしいその姿は、ねこぢるシリーズに出てくるステテコの父親猫にもよく似ていますが、あちらがシュールな残虐物であるのに対してこちらは絵本なのです(とはいえこちらも充分シュールで残酷ではあります、ピーターの方の父は既にパイにされて食われて故兎だったり)。このシリーズの至る所に滲み出ているがめつい商魂とかもそうなのですが、人間模様だか動物模様だかの切り口が鋭い断面をのぞかせています。
 なお、ばにばにパパさんもバウンサー(ぴょんぴょんじいさん)と呼ばれるようになった後年は、第4部ジョセフ・ジョースターのように見る影もなく老け込んでおり、それもまたやけに生々しいのですが、それはまた別の機会の話