比喩的に操り人形


「じゃあ、整理するぜ。まず、『本当の意味での』AIのデコット(デコイロボット=操り人形)。バイオロイドなり何なりで、生物としては人間と区別する手段はないかもしれないが、その精神はAIの下部端末、AIがじかに操作してるアスペクト(一側面)、と考えてみるとして――」
 BAMA(北米東岸)の黒人ウィザードは、ホログラムモニタとミラーグラスの向こうで指を振って言い、
「――それに対して、あんたの言う『比喩的な意味での』AIのデコット。現に巨大企業(メガコープ)の経営陣、軌道一族がそうだが、そっちは、『人間』として誕生しているが、遺伝子のひとつまでAIが産み出し、生まれてのかたAIが教育し、一挙一動がAIの考えに沿うように動いてる、まさに比喩的な意味でAIの操り人形になってる人間、だとするぜ。それでさ、このふたつは一体、どこがちがうんだい……どうやって区別する……」
「AIが操作しているデコットと、自由意思を持つ人間なら、なんらかのテストで区別できるはずだ」
「いまどき、チューリングテストだの、フォークト=カンプフ試験だのでもやるってのかい……」
 ウィザードは大仰におどけた仕草で、首をすくめ、
「それとも、なんか他の最新のテストかい……しかし、ま、どれも駄目さ。『人間』と『それ以上の知能のもの』を区別するテストを、『人間』が作ったところで、向こうがそれに引っ掛かってくれる道理がない」
「区別できないとしても、操り人形と人間は違うものだ。人間には、自由意志がある」
「区別できないって、一体、どうしてそれがわかるんだい……人間の科学力、いや、そうじゃなくって、”人間の知能のレベル”じゃあ、『自由意思』だとか、『個体の生命』なんてもの、その有無を正確に定義することができないんだぜ。人間なのかデコットなのか判別するどころか、どっちが何なのか定義することもできない。だとしたら、軌道一族の経営陣が全身義体化したバイオロイドだとして、それの正体がAIなのか人間なのかなんて、どうやって人間にわかるんだい……人間は、もしAIにとっくに支配されてたって、支配されてることにすら気づかない。逆に言えば、さ。人間に気づかれずにいくらでもできることを、わざわざ改めてやる必要があるってのかい……」