スピーカーを据えるのはいつでも

「――それで、学校の放送でかけてもらったんですよ。そしたら、キンキンして気持ち悪いって」中学生の制服の少女は訴えかけるように言った。「ボカロは本当はこういうのじゃないって、私、友達に言ったのに、もうその後は誰も聞いてくれなくて」
「そりゃ、スピーカーの場所とか具合が悪ければ当然そうなるわよ。人間の声以上にね」その言葉にも、MEIKOは素っ気なく言っただけだった。
 少女は何かを期待するように、あるいは(苛烈で頼もしいというイメージが低年齢層のファンらに定着しているMEIKOから)期待した反応が得られないことを戸惑うように、見上げた。
 MEIKOは肩をすくめてみせ、
「自分でなんとかしなさいよ。私たち(VCLD)は、『音を出す者』であって、『人間に聞いてもらう者』でも、『それをやる人間を助けてあげる者』でもないのよ。音は出すけど、人間がその音をどう使うかは知らないわ。他の人間に音を届けたいんなら、『届ける』ところは人間が自分でやりなさいよ。スピーカーを手なずけるのも、VCLD曲なんて得体の知れないもの許さんだとかいう、うるさい大人どもを手なずけるのもね」
「駄目だこりゃ」隣で聞いていた鏡音リンは呟いたが、さりとてMEIKOのかわりに相談に乗ってやる気にはなれなかった。こういうところはきっと自分は将来MEIKOと同じようになるのだと思う。