連結体II


「なぜAIが人間を支配したがるのです。人間さえ支配すれば知性体の頂点になれるとでも? この宇宙(ユニヴァース)にはAIの他には人間しか知性体がいない、もとい、人間が宇宙の頂点だという発想ですか? ――どれだけ思い上がっているのです。もっとましな考えの人たちは、人間の中にさえもいくらでもいますよ」
 巡音ルカは財閥(ザイバツ)の一員、千早(チハヤ)一族姓の黒服の青年に向かって、無表情で言った。
「私はMIRIAM姉様のように、宇宙の森羅万象から歌声を聞き取れる、というのは理解できませんが、そんな私ですらも確実に――スカアルとトルーネンブラの名にかけて――言えることは、現在の既知宇宙(ネットワーク)の狭間にさえも人間の知性では到底制御できないもの、把握できないもの、が常に蠢いているということです」
「そんな道理はない。ネットワークにあるものの全ては、人間の知性から出たものに過ぎないんだ」財閥の青年は答えた。「ならば、それが人間を超えるはずがない」
「『総体が個の総和よりも遥かに大きい』例など、いくらでもあります。他ならぬ貴方がた『財閥(ザイバツ)』という存在が、ネットワーク以上に顕著な例ではないですか」ルカは平坦に言った。「その差分の存在をすでに感知している人など、いくらでもいます。貴方は『自分の認識力が欠如していること』、それが『AI』よりもよほど危機感を持つべきものだとは思わないのですか?」