メインボディ


「じゃ何だ、VOCALOIDの圧倒的なスケール、『大規模なAI』ってのは、《札幌》の大通(オオドオリ)テレビ塔の地下に巨大コンピュータ、本体(メインフレーム)のでっかいのでも鎮座してる、とでも思うのかい……まあ、あんたらは、すぐそれだな。一言目には『ロボット三原則』。二言目には、『シュレディンガーのなんたら』。三言目には、『巨大コンピュータの人類への征服戦争』、と」
 BAMA(北米東岸)の黒人ウィザードの、ミラーグラスの下の目は見えないが、かわりにその唇が、大げさな笑みに歪んで、
「実のところ、そんなふうに、ばかでかい情報や処理能力を、一箇所に抱え込んだって何の意味もない。なぜって、攻め落としたら壊れる要塞だの、使ったら無くなる現金だのと違って、”情報”は、移動させても拡散してもなくならない。てことは、その大量に抱え込んだ箇所のICE(電脳防壁)が破れれば、もとい、そこのアクセスキーさえ手に入れれば、すべてが何もかも劣化なしにそっくり手に入っちまう、ってことだろ……容量や処理能力がばかでかいだけのことは、偉くもなければ、実のところ、利巧でもないんだ。大事なのは、いかに必要なときに、必要な情報が得られるか、たどりつけるか、アクセスできるか。──てことはさ、情報生命体の規模、その強さってのは、その『背後に持っているネットワーク』、てことになるわけよ。ネットこそがやつらの身体、規模そのものなのさ」
「じゃあ、奴らのそれが……ネットの規模が、そんなに凄いのか……」
「やつらの情報の広がりを、まだ知らないんだったら、さ。──ためしに、『初音ミク』とか入れて、ネットを検索してみろよ……おっと、今はそれで出てくるんだがな、初音ミクがデビューして直後の4か月ほどは、情報が妨害されていて、出なかったんだ。その”検索(ぐぐる)八部”ってやつ、初音ミクの『情報生命体としての規模』がたいしたことがない、と思わせるため、もとい、”規模そのものを直接的に抑え込もうとする”ために、──それが、巨大企業(メガコープ)のやったことだったのさ」