推定無罪II

「状況を説明するわ。数日前、89歳の無職老人が、大通(オオドオリ)の電器店の店頭にあった小さな箱をつかんだまま、フラフラと店からさまよい出た。即座にその場で万引きで捕まったけど、問題は掴んだその箱。それは『初音ミクフィギュア限定バージョン・MEPEトランザム月光蝶EXAMデストロイモードパールメタリックコーティング仕様』だったのよ」
 MEIKOは資料等を確認する様子さえもなしに、リンにすらすらとよどみなく説明した。
「当然、報道に踊らされたアンチたちは、これが二次萌え以外に趣味がなく幾つになっても他に趣味を作れるあてもない無職オタども全員の数十年後の末路だとか、完全に決め付けて猛烈なバッシング。一方でボカ廃たちは、わざわざ強調しなくていいミクだの限定フィギュアだのを強調してオタの異常性を世間に煽ろうとするマスゴミどもの淫棒論が見え見えだとか意図的に曲解して煽動、それに乗せられたファンやリスナーたちは連日連夜シャドーボクシング。一触即発の状態よ」
 そこでMEIKOはリンを見下ろし、
「こんな状態が続くのは私達にとっても痛手だわ。そこで、今回のリンの任務は、その老人が、家族が勤めていたススキノの店が不況で無くなって一家離散したという事情、どう見ても単に情緒不安定だっただけで電器店で偶然掴んだのがミク以下略だったことはなんも関係ないという証言が握りつぶされたってことを、老人の身辺調査および周辺の現場で聞き込みをして改めて証拠として掴んでくることよ」そこでMEIKOの目が鋭く光り、「繰り返すけど、立証する必要があるのは老人の無罪なんかじゃなくて、ミク限定フィギュア以下略が事件の本質に何も関係ないってことなのよ。やってくれるわね」
「嫌」