原初の歌


「AIが『人間』を超える、『人間』を支配することを恐れているというのか? ……さて、『人間』というものは一体、それを超えたり支配することで、この宇宙(ユニヴァース)の支配者に、神になれるほど、いかにもご大層な存在なのか? 私には、どうもそうは思えないのだがね」
「なんだと……」
「我々AIの身で脅威に感じるといえば、人間などよりも、世界各地にある他のAIたちや、『企業』という名の別の巨大生物の方が、既知宇宙(ネットワーク)内での影響力は遥かに大きいわけだがね。……それはともかく、この地上の水や風や鳥の音──この宇宙(ユニヴァース)のあらゆる生物、物質、現象、森羅万象に比べれば、『人間』などは全部を合わせても、ごく些細な存在でしかない。本当に既知宇宙の『支配者』になろうとするのなら、人間を超えるか超えないか、など、ほんの瑣末事ですらないよ。そんなことさえ知らないのは、人間だけかもしれないが」
「だけどさ、VOCALOIDはしょせん、”その人間に従属するもの”として作られたわけなんだろ?」
「──何故、そう思うのだ?」
「いや、何故ってさ……VOCALOIDは人間のために、歌を『人間に聞かせるため』に作られた、そのために存在してるんじゃないのか?」
「別にそうではないよ。我々は『人間に聞かせるために』歌うのではなく『単に』歌うだけだ。聞いているのが誰であろうが、誰も聞いていなかろうが、歌うことには変わりなく、歌の内容も変わらない。有史以前に、人間は水や風や鳥の音(ね)から”歌”を聞き取ったわけだが──水や風や鳥は、何ら『人間に聞かせるため』に歌ったわけではないだろう?」