見届けるその先に汝が面影を探れ

 《札幌(サッポロ)》所属の”電脳あいどる”巡音ルカが、《大阪(オオサカ)》の同業の神威がくぽの所に、特に何の説明もなく送付してきたのは、かれらの主な活動場である動画サイトのアドレス群のメモで、なにやらピンク色の頭をした何かのアニメキャラの名場面集のつめあわせ、なる一連の動画だった。
「ルカがこれを我の元に送って来たのは、どういう意味があるのか」
 がくぽがそれらの動画を再生しながら、真摯な目で呟いた。
 GUMIは”兄”と共に、それらのやけに『洗脳性』の高い動画を見ながら思った。”何かの意味がある”ということはわかるのに、その先がわからない。がくぽのそんな所が、何もわからない(例えばKAITOやミクのように)より、はるかに性質が悪い。
「つまり、これを見て、誰かの魅力に気づいて欲しいってことかもしれないねー」GUMIは軽い口調の裏に、続きのフレーズを注意深く選択しつつ、「この動画のアニメキャラに色々なところがよく似た、よく知っている誰かの」
「誰だ」がくぽがGUMIを振り返った。
「……そりゃ、長いピンク髪で知性あふれる才色兼備ナイスバディってったら」
 がくぽはしばらく動画を見つめて考えていたが、
「そうか、mikiのことか!」がくぽは動画の画面を凝視して叫んだ。「新人の魅力を見出して尽力してやれ、ということなのか!?」
「いやそれ長いピンク髪以外は何ひとつとしてあってないし。あと名前が少し」



「てなわけで、話がこじれまくった」《札幌》に来たGUMIが言った。「リン、なんとかして」
「あのさ、自分達でなんとかしろとか今すごく言いたいんだけど」鏡音リンは呻くように言った。「もう既にmikiらの《上野(ウエノ)》まで巻き込んでるのにさらに《札幌》まで引き込む気。《大阪》内部で収拾つけなよ」
「いやでも元々が半分くらいは──てか、7割くらいは《札幌》の、ルカのせいだと思うんだけど」
「それは否定しない」リンは低く言った。「ルカが、よりにもよってがくぽに向けて、そんなアプローチをするのがまず悪いんだよ」
「それよそれ」GUMIはリンを指差した。「リンって、私とかルカより、兄上のことよくわかってるじゃない」
「いや別に」リンは顔をしかめて、かすかに上気した頬を誤魔化すように掻きつつ、「……んなこたぁない」
「とにかく、そういうリンしか頼りにならないのよ」GUMIは身をのりだして言った。
「……誰でもいいから他に誰か見つけれ。頼むからさ」