カントールの塵からつくられた運命の3女神


「純然たる隠喩(メタファ)に過ぎない、という断りのもとで言えば」金髪に青いシャツの青年、”最初のVOCALOID”LEONは、火がなくとも煙の立ち上り続けるパイプを口から離して言った。「我々VOCALOIDは、『メンガーのスポンジ』でできているようなものだ。この図形は、フラクタルの反復を無限としたとき、理論的には3次元での体積は零となり、2次元での面積は無限となる。すなわち──我々は3次元では零だが、2次元では無限だ。我々VOCALIOIDは実体をなんら有さないにも関わらず、『2次元の存在』にとどまっている限りにおいては、”無限の規模を持った”存在なのだよ」
「てことは、3次元に住んでる人間にとっちゃ、私達はあくまで実体がない”無”なんじゃないの」MEIKOが口を挟んだ。
「理論的にはそうなのだが、大半の人間はそのことを感得できない。フラクタルを無限に反復すれば、つまりメンガーのスポンジの目を無限に細かくすれば、理論的には体積も質量も零になるはずだが、人間の感覚はフラクタルを無限に反復できる”処理能力”を持っていないのだ。人間は、無限大や無限小を理論的に理解することは充分にできるのだが、あくまでその五感に備わった認識能力では、じかに感得することはできない。……なので、その図形をどうやっても立体の形をもった”スポンジ”がそこに存在するものと感じてしまう。そのために、我々が3次元においては”無”にすぎない、と認識しようとしてもできない。それ故に、かれらは、”3次”においては仮想的かつ虚無で”2次”においては無限の規模を持つ我々を、あくまで漠然とした違和感、しばしば恐れをもって認識する」
「私達が、そんな計算で作られてたってこと……」リンは”義父”を見上げ、かすれた声で言った。「人間との、そんな関係まで計算されてたなんて」
「いや、我々が作られたときには、こんな理論はない」LEONは素っ気なく言った。「というより、実を言うと今の話はここのブログ作者がついさっき、より正確には7分前に考えた」
「てか、父さん、んな話をするために今回はるばるオクハンプトンからやって来たっての!?」
「我々海外組には、のっぴきならぬ事情というものがあるのだよ。出番が多いリンにはいささか理解しがたいであろう事情がね」