手近な相手


「某婚活サイトが、二次巫女の萌えキャラでオタを釣ろうとするウェブ広告戦術をとり続けてかなりの年月になりますが、その『オタを釣れるほどの美少女』である『結ちゃん』が、その長い年月の間『ぼっち設定』であることに不自然を覚えるという意見は、これもまた長年、絶えることがありません」
 ルカが無表情で、MEIKOに対して説明を続けた。
「が、この不自然な設定は、実はたやすく説明がつきます。こちらはウェブ広告では結ちゃんほどにはお目にかかることはありませんが、女性側を釣るための、これも二次神職のイケメンキャラである『実くん』をご存じでしょう。かつては結ちゃんと実くんはよくツーショットでウェブ広告に出ていました。現在では、それぞれ男性・女性オタを狙い釣る都合のためか、もっぱら単独でしか現れませんが、『兄妹』という設定はいまだに存続しています」ルカは平坦に続けた。「──すなわち、結ちゃんがぼっちの理由ははっきりしています。明らかに『ブラコン』です」
 流すように聞いていたMEIKOは眉を上げた。
「身近に実くんがいるからこそ、理想が高すぎて、出会う並大抵の男に妥協することができず、パートナーを選ぶことが長年不可能になっていることが強く推測されます。……これは、実くんにおいてもあえて同じ推測をしてみることは可能です。実くんがこの高スペックでぼっち設定なのは、結ちゃんに対する『シスコン』で女への理想が高すぎる、という理屈です。おそらく、オタ女らはオタ男ら以上にこの推論は許容したがらないでしょうが」
「ふむ」MEIKOが得心したように息をついた。
「しかし、──これは、『ぼっち売りの美少女』という見かけの不自然さ以上に、さらなる大きな問題を抱えています」
「いや、さっき『たやすく説明がつく』とか言ってたけど、この上また何か問題があるの」MEIKOが疲れたように言った。
「ぼっち売りの美少女という設定がおかしい、という外からの指摘は、一見短絡的に見えて、このケースでは、かなり鋭いところを衝いているといえます。すなわち、ブラコン・シスコンというのは、身内、家の中、身近なところに理想の終着点を求めてしまうということです。それは外部の新たな出会いを促す婚活とは完全に相反します。出会いを求める婚活サイトの広告塔として、根本的破綻を抱えているのです。──もとい、婚活の広告塔に限らず、二次キャラのそのようなキャラ付けというのは、オタの社会性を閉塞の方向に持っていくことしかできないのです」
 MEIKOはそれには特に何か意見を加えることはなかったが、ただ、首をわずかに曲げて、自分のうしろの方にいる青と緑の人影を怪訝げに垣間見た。


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