孤独な超人II


「アナタ、さっき、ボカロは人間の所有物なんだから、FSSのファティマみたいに人間を『マスター』と呼ぶのが当たり前だ、とか言ってたけど……ねェ」
 MEIKOは疲れたような声で、
「そのアナタたちの好きなボカロ創作の中の、『マスターに絶対服従するボカロ』は、ファティマと同じ権利はちゃんと与えられてるの? 自分でそのマスターとやらを選べるの? 自分と相性がいい騎士――言い換えれば、自分の声と相性がいい曲を作る力がある人間とか、自分のモーターヘッドを使いこなせる騎士――つまり、自分の声を最大限生かせる機材を使いこなせる人間とか、そもそも、強力なヘッドライナー――つまり、優秀な音楽の才能がある人間とかを、ファティマみたいに自分で選ぶ権利は与えられてるの?」
 MEIKOはやる気のない表情の声と共に、指を突き付けるように伸ばしてみせ、
「それとも、それを選ぶ権利がないから、ファティマよりもさらに悲しい存在だから、ボカロは『天使』だとかなんだとか言いたいわけ? じゃ、実際にその『天使』とやらが、無能な作り手、VCLDの現象の本質を自分から理解しようともしない人間を、妄想以上の場所に押し上げてくれたの? アナタがインストールしただけでまともに歌わせもできなかったVCLDソフトウェアは、アナタを天使として救済したこともないどころか、本当は『マスター』と呼んだことさえないわよ? ――何かの設定を丸写ししておきながら、『徹頭徹尾無能な人間』も無条件に『マスター』とか呼ばれて報われる、そんな都合のいいとこだけ取っとこうなんて、そりゃまたずいぶんと虫のいい話だわね」