ヴィーナスの成長とその根源


「アイドル(Idoru)としていかに”恥じらい”を表現するか」巡音ルカが《札幌》のスタジオで、いつものように姉妹らに報告した。「『恥ずかしそうに大事なところを隠している画像』というスレタイの釣りスレッドが立つたびに、『ボッティチェリヴィーナスの誕生』が貼られるのが定番ですが、これは一見さほど恥ずかしそうではありません。実際のところ、これを含む膨大な”恥じらいのウェヌス”モチーフの実際の原型となった最も重要な作品が他に存在し、それは『クニドス島のアフロディーテ』という女性偶像です。オリジナルの像が伝わっておらず、膨大な複製、それも異なる解釈のものがあり、その模作もとい模索がカピトリーノ丘やボッティチェリのような類似モチーフの別作を作り出す流れにじかに繋がっていると言えます」
 ルカは表情のひとつも動かさず、石膏の断片やそこから派生する、有名なポーズの数々のモチーフを図示した。
「ここで、クニドス島のオリジナルの像には下半身にわずかに汚れのような、それを削り取ったような跡があったといい、これはとある美青年がある時この像に対する邪な情欲を遂に抑えきれず、夜に忍び込んで像めがけてたまらず発射してしまった痕跡だといわれています」
 ルカは無表情で平坦に言った。
「架空のものに対する欲情を女神、もとい偶像(Idol)という存在に仮体するという思想ははるか紀元前までさかのぼるという点は周知の通りですが、――とりわけその中でも、Japanese Hentai Kimo-ota文化において、その欲望が最も顕著で激しい形をとって具現化した”The Figure Bukkake”すらも、やはり紀元前にまでさかのぼる根源的なものだったのです」
「いかに恥じらいを表現するかの話はどこ行った。てか何の恥じらいも表わさずにそんな話をすんな」鏡音リンがうめいた。