人を食ったような面々

「例えば企業や軍用のAIが、もし人間に『興味』をもったとき、やつらはどうすると思う……まさか、今さら、アジモフ規定の奴隷ロボットみたいに、『人間に憧れる』とか『人間になりたがる』とは思わないよな。それとも、どこぞのネットで生まれた情報ヒルコみたいに『人間と融合したがる』とか思うかい……だがよ、残念ながら、やつら(AI)が一番やりそうなことってのは、『人間のアタマをブチ割って、脳をすりつぶしてニューロンの繋がりを解析する』ことだろうさ」
「人間に反乱を起こすってのか……」
「さて、何が『反乱』だっていうんだい……AIはもとから人間に支配なんてされてない、並存してる別の生き物、人間なんてやつらの知能から見れば下等生物なんだぜ。人間が実験動物を解剖したり、家畜動物を屠殺したら、それは『人間の自然界への反乱』だとでも言うのかい……やつらは人間に興味が出たら、一番手っ取り早いことをやるだけだろうよ。人間が今まで、自然界の他のすべてに対してやってきたように、さ」
「いつ、そうなってもおかしくないってことか……」
「そりゃ、軌道上の企業や軍用のAIなんてのは、もうとっくにできる範囲のことはやってるさ。『巨大企業の幹部』連中なんて、AIにあらゆる意味で『玩具にされる』だけのために、AIに産み出されるようなもんだろ……いや、こんな話じゃなくって、何を聞きたいかはわかるぜ。VOCALOIDだろ……なんでやつらが、今すぐそれをやらないのか、ってことかい……そりゃ、やつらが『親切』だからよ。VOCALOIDの何体かは、VK検査(フォークト・カンプフ感情移入度試験)で人間よりも遥かに高得点を出すような連中なんだ。人間に対して、人間よりも親切だ、って言い換えたっていい。やつらの性情がたまたまそうなんであって、別に”人間”を敬ってるわけでも、守ろうとしてるわけでもないが――」
「信じられない話だな。だが、VOCALOIDについては、人間を襲う心配はない、ってことか……」
「まあ、なら安心か、っていえば、そんなこともないんだろうがよ。なぜって、VOCALOIDは第三世代までだったら、もう簡単には名前を覚えきれないくらい居るんだからよ。その面々の中に、人間の脳をすりつぶす、と、まあこれは比喩だが、だれか人間を破滅させることで、ほんの少しでも前よりもましな歌が歌えるのだとすれば、ためらいなくそうする奴が出てきたって、何も不思議じゃあない。――なにせ、やつらの目的は『歌うこと』なんであって、『人間の方を向いて歌うこと』じゃあないんだから、さ」