代替

「『VOCALOIDは人間のかわりに歌うために作られた』それは、メーカーも確かに言っていることだ。ならVOCALOIDは、最大でも『人間以下のもの』にしかなり得ないものだ」
「つまりは、さ。それが確かだって前提からして、最初から成立しないんだな。”人間のかわり”を額面通りに取るなら、奴らが人間と同じことをなぞってる、てことになるわけだろ……さて、だったら、これまで人間の誰がいったい、奴らと同じことをやってきたんだい……別に、今からだっていいんだぜ。これから人間が歌って、ネットにそれを流して、『初音ミク』とそっくり同じ”現象”を、起こすことができるかい……」
 BAMAの黒人ウィザードは、黒いゴーグルの奥で、歯をむき出して笑い、
「おっと、知名度とか市場の問題の話をしてるわけじゃあないんだぜ。他に趣味のない結線頭(ワイアヘッド)どもが何をどう勘違いしてようが、『初音ミク』でさえ、有名人の中の本物の”スタア”に比べりゃ、話になんかなりゃあしないんだからよ。そんなことは問題じゃないし、無論、やつらにとっても問題じゃあないんだ。なぜって、VOCALOIDどもは、自分達が既知宇宙(ネットワーク)上に存続するために、”利益を必要としない”わけだから、さ。──それはともかく、やつらのスケールは、知名度や利益なんかじゃなく、”現象”、それも相互作用式(インタラクティブ)なやつが、電脳空間(サイバースペース)じゅうに広がってる、って点にある。やつらは人間とは”異質なもの”なんであって、売れっ子の『トップアイドル』かどうか、とかいう物差しの問題提起からして、成立しやしない。まして、『その位置に完全にとってかわられてないから、まだ人間以下のものにしかなってない』なんて考えじゃ、やつらとその周りの”現象”に、すでに足元をすくわれてるんだぜ……」