仮面と覆面

「でも、㍗さん」mikiがたずねた。「YAS御大のオリジンって、今までも初代テレビシリーズのアニメと違う展開だとか、唐突な展開だとかも、しじゅうあったんじゃないですか?」
「それはそうだよ。だが、オリジンの山場も山場になってから、セイラさんがダイクンの遺児を名乗る、蜂起するといったものは、それまでのキャラからして急に過ぎるんだ」《札幌》のPVディレクターは、そのmikiの問いに対して重苦しく答えた。「実は、初代テレビシリーズの放映短縮で使われなかった初期の構想、いわゆるトミノメモには、セイラさんがデギンと対峙する場面というのは確かにあるんだね。だけど、それとは意味合いが違いすぎるだろう。何よりも、過去編にあれだけの尺を設けておきながら、セイラさんとキシリアが対峙する、ということに対する伏線らしきものは何もないということなんだよ」
 と、そこで部屋の扉が開いた。二者のやりとりを聞いていた神威がくぽは顔を上げ、新たに現れた姿に、思わず期待の声を上げた。「キヨテル!」
「初代は、一部の者からはもはや日本の義務教育とも呼ばれる存在です」書類の山を抱えた氷山キヨテルは、落ち着いた足取りで歩み入りながら言った。「その是非については議論が待たれるところですが、今のこの事態はのちのち教育にも及ぼす影響が大きいと言わざるを得ません」
「で、何かわかったかい」ディレクターはいそいそとキヨテルに歩み寄って言った。「やはりアルテイシア少佐に関わりが……」
「それは興味深くはありますが、冗談企画なのでYAS御大との関連性という点からは考慮には値しないでしょう」
 キヨテルは抱えていた書類をがくぽ、miki、ディレクターの前に置いてから、三者を一旦、見回して言った。
「……我々はとんでもない勘違いをしていたようです。まず、これを見て下さい」
 キヨテルは書類を開いて、動画リンクをはじめとする一連の資料を示しながら言った。
これは海外で作られた『宇宙黒騎士』の映像の一部です。初代テレビシリーズの作画下請けをしていた海外スタッフが、YAS御大の初代の作画設定をそのまま使用して作ったとも言われています。普段ならば、影響インスパイヤ云々を形の上での話題にする局面での色物のひとつとして以上の注目を集めることも特にないこの作品ですが」
 キヨテルは書類をめくり、いくつかの場面を検証したページを指でなぞり、
「注目すべきはこの映像です。主人公の黒騎士は、シャアのような姿から仮面を取ると唐突にアムロそっくりとなりますが、ここで相棒の女騎士はキシリアのような姿から覆面を取ると唐突にセイラさんそっくりとなります」
 そこでキヨテルは突如、ぐいと片方の掌を上に向け、宙を掴み上げるかのような仕草と共に訴えかけた。
「つまり、シャアとアムロが宿敵であるかの如くキシリアとセイラさんが対になる存在であることは、YAS御大のキャラ設定の時点で既に予定されていたことだったんですよ!」
「な、なんだってーーーー!!??」がくぽ、miki、ディレクターが、あたかも世界の破滅を目の当たりにしたかの如き形相で絶叫した。



※あらかじめ言っておくけどいずれもブログ作者の感想ではないので詳細は困る