第13独立部隊


「㍗さん」鏡音レンが尋ねた。「ボクらのプログラムの基本の部分を作った、《浜松》や《磐田》の会社って……大きな企業なんだよね」
「その通りだ!」《札幌》のVOCALOIDプロジェクトのディレクターが答えた。「どちらもそれぞれ、かなりの大企業だね! 今は《磐田》の方が少し大きいね!」
「それって、世の中で言う、”巨大企業(メガコープ)”なの?」
「ITTやオノ=センダイほどじゃないが、どちらも多国籍の大企業だね! 《浜松》の音響も、《磐田》の発動機も、世界的な信頼があるよ!」
 レンは少し間を置いてから、
「でさ、……ボクらが、《札幌》やVOCALOIDプロジェクトが危ない目にあわされるとか、狙われてるとか言われてるのも、実は、ほかの悪い会社の仕業とかいう話があって、その悪い会社っていうのも、巨大企業(メガコープ)なんだよね」レンは半ば不思議そうに言った。「そういう悪い巨大企業(メガコープ)が凄い力を持ってて、《札幌》ではなかなか抵抗できないってのはわかるんだけど……その《浜松》や《磐田》も大企業なら、ボクらを助けてくれるとかって……無いの? 大企業の全力なら、悪い巨大企業と戦えるんじゃないの?」
「レン君、それは実にいい質問だ! まさに、よくぞ聞いてくれたと言いたいね!」
 ディレクターの瞳が輝き、言葉がさらに熱をおびた。
「すごくわかりやすい例えがあるよ! 《浜松》や《磐田》がジャブロー連邦軍本部だとすれば、我々、この《札幌》のVOCALOIDプロジェクトは、ホワイト・ベース隊だ!」
 レンは無表情で言葉もなくディレクターを見つめた。
「本部はWB隊を、最先端・最新鋭の独立部隊として、最前線に押し出して、戦果の期待もかけている! でも実は半分くらいは”実験部隊”だ! なにかと囮や陽動の駒に使うし、積極的に助けてくれるわけじゃない! だけど本部の人達の一部には、上にもレビル将軍のように好意的な人達もいるし、さらにはマチルダさんのように本当に親身になって助けに来てくれる人達もいる、という図式だね!」
 レンは目をしばたいて無言を続けた。すごくわかりやすい例えという言に反して単語や比喩の意味はさっぱりわからないが、その図式──自分達とそのプロジェクトが巨大企業が前線に押し立てている駒──は、何となくわかる。わからないのは、ディレクターが自分達のそんな立場を語りながら、なぜそこまで(ある程度はいつも通りとはいえ)嬉しそうなのか、ということだった。
 レンは理解の助けを求めるように、MEIKOを振り返った。
 しかし、MEIKOはレンの方ではなく、カメラ目線で言った。
「このブログ、実在の企業とかその互いの関係とかの話とは一切関係ないわよ」