ちと訊かれたので

「”電脳戦”って、『フォーマット』とか『アンインストール』とかの兵器を、AIとかソフトウェアにドカーンとかぶつけるんだよね……」
「うん──そうだな。フォーマットやアンインストールで、ソフトウェアを消去する、としよう。坊主の持ってる自分のPCの中でやるなら、簡単だな。坊主の最終兵器アンインストール爆弾で、中にいるプログラムどもは、ドカーンと抹殺だ。さて、坊主は、自分のとこの学校のメインコンピュータの中から、ソフトウェアを消去しようとして、できるかい……」
「できるわけないよ」
「なんでだい……ドカーンとぶつければ抹殺、じゃないのか」
「だって、学校のコンピュータには、先生がセキュリティをかけてるもの。フォーマットとかアンインストールは、実行できない」
「うん、つまり、さ。問題は、そのエリア、あるいはそのプログラム個々の”支配権”をとれるかってことで──要するにそれは、そこにかけられたセキュリティを破れるかどうかなんだよ。どんな巨大コンピュータでも電脳端末(PC)でも誰かの電脳でも、何でもかんでもさ。支配権をとれば、あとはその相手を煮るなり焼くなり、何だってできるのは同じことだ。その、なんだ、たまに『超兵器』とか『スーパーハカー』とか信じ込まれてる、”何千エクサバイトを一瞬にしてフォーマット”だろうが、”相手を強制的にアンインストール”だろうが、”銀行の口座の書き換え”だろうが、さ。実は、そういう操作そのものは、坊主にだって簡単にできることで、高度な技術でも、兵器でもなんでもない。わかるだろ……」
「よっぽど難しいのは、その前の段階の、セキュリティを破る方ってこと……破るのが兵器なの……」
「破る方も、破られる方も、学校のパスワードロックのセキュリティなんかの域じゃなく、さ。防壁や装甲服のセキュリティ構造を貫通するために、全力を挙げることになる。これがAIのアヴァターやアスペクトになると、素で外皮装甲(ナチュラルアーマー)や呪文抵抗力(スペルレジスタンス)も持ってるわけだ。さらには、一番硬い部類の中には、破りに来たやつを凍らせて、下手すると脳死(フラットライン)させるような、ひときわ冷たい氷の壁ってやつもある、と」
「知ってる──”氷”はICE、Intrusion Countermeasures Electronics (侵入対抗電子機器)だ」