4月と7月と1年

「……共に過ごして1年が経っても、まだそれでも時々は」
 遠くから5人のライブステージを見ながら、ルカは喋っていた。
「あの5人には、どこかに私の知らない絆があると。私より先に1年以上を共に歩いてきたあの5人には、私には入り込めない部分があると、いまだに思うことがあります」
 何故、自分は、がくぽに対してこんなことを話しているのだろう。ルカはそれがわからないままに、ただ自然にそう言っていた。
 ──なので、がくぽからその声が返ってくるとは、予想していなかった。
「……いや、それは、ルカよりも先立って、むしろ我の方であろうな。先に7か月を共に歩いていたあの五人に入り込めぬ、と感じたのは」
 ルカは、ステージを見上げているがくぽの方を見た。
「……然れども、リンより、斯様な話を聞いたことがある」
 がくぽは、ステージを見たままで続けた。
「リンとレンも、上の三人の姉と兄には、どうあっても入り込めぬことがある、と感じているのだと」
 ルカは、ステージのリンとレンに目を向けた。リンとレンは、ルカのように1年以上の間を空けてではなく、VOCALOIDが世間で話題になってからわずか4か月ほどの間しか空けずに参入して、それから丸1年以上を、共に過ごしてきたのではないのか。
「最初の、あの4か月を駆け抜けていったミクと。にわかには人知れず、ついで矢面に立ち、それを支え続けてきた姉と兄、その三人の間には、リンには思いも届かぬほどの、強い絆があるのだと」
 ルカはそれを聞いて、しばらく黙っていたが、
「もしかすると、……全員それぞれが違い、全員それぞれの相互の間に、すべて違う種類の、すべて強い絆があるからこそ」
 ルカは言葉を切り、考えるようにしてから、
「そこに、私達VOCALOIDが『これほどまでに多人数で、これほどまでに多様であること』の、本当の意味があるのかもしれません」
 ルカはステージを見上げ、
「けれど、そうだとしても、私は──」



 がくぽはしばらく考えるように沈黙していたが、
「いや、いささか、我には難しきことは何もわからぬが──」
 ルカを見下ろし、その目を見て言った。
「──なに、我にはルカ、ルカには我が居るではないか」
 ルカは、しばらくの間、自分を見下ろすがくぽの目を、じっと見上げていた。
 が、ややあって、ルカはそのまま口を開いた。
「……がくぽがあの5人に入りきれないのは、キャラが浮きすぎているせいです」ルカは平坦に言った。「一緒にしないで下さい」
 ルカは背を向けると、ライブステージ前の人込みの中に去った。
 ……がくぽは、ステージに目を戻すこともなく、そのルカの去った先の人込みの中を見つめ続けていた。
「兄上さァ……」やがてGUMIが、がくぽの背後から言った。「今の自分の発言の意味が──いや、それより、発言の『インフラ』とか『タイミング』とかいう言葉をご存じ」
「普請布石や、潮合のことであろう」
「知ってんじゃねーか」GUMIは低く呻き、「それでそんなんだから、”浮きすぎる”より他にしょうがないって……」