バイオコンピュータおばあちゃん(MEPE最大稼働モード)

 もう何年前なのか思い出せないくらい大昔に見た『まんが日本昔ばなし』の話ですが、おっちゃんが夜更けに山奥のお婆さんの家に一夜の宿を借りることになったのですがそのお婆さんがものすごく顔が怖い。おっちゃんに味噌汁とかを御馳走してくれるのですがとにかく顔が怖い。おっちゃんは山姥の家に泊まってしまったのかとガクブルしつつも辞去も言い出せずそのまま泊まるのですが、夜中に起きてふすまを開けると、闇の中でお婆さんが分身していたのです。
 これだけでは何を言っているかわからねーと思うからありのまま起こったことを話すのですが、黒い画面の中、お婆さんが足を動かさずに左右に滑るように動いているのですが、移動するお婆さんからそのたびに質量を持った残像が発生していたのです。
 その先どうなったのか、以後の場面については全くわかりません。そこで父が無造作にぶちっとチャンネルを変えて巨人戦(※1)を見始めたからです。そこで父に対して不平を漏らしたり抵抗した覚えがまったくないため、おそらく、その時には自分は『まんが日本昔ばなし』を真剣に見ていたわけではなく、おそらくたまたまテレビがついていただけだったのでしょう。その時は内容もその先にどうなるかも、何も気にしていなかったのだと思います。
 その先が気になり始めたのは何十年も経ってからです。なぜ思い出したのかも(というかなぜそれが記憶に留まっていたのかも)なぜ気になるのかもさっぱりわかりませんが、それはともかく、あのお婆さんは何者だったのでしょう。やっぱり山姥だったのでしょうか。しかし、脚本の作法上それはありえないことです。あんなにいかにも山姥のような怖すぎる顔をしておいて、やっぱり山姥でした、なんてのは脚本として下策にも程があるので、まずありえない話です。しかし仮に一般人のお婆さんとか、百歩譲って無害な善玉だったとして、それが質量を持った残像を発生するものでしょうか。というか山姥だとして、(一般人のおっちゃんに対して)山姥って分身するものなのだろうか。だってF91もMEPE機能があるのはシーブックの乗った試作機だけで、ハリソンの青いF91も最大稼働モードはありますがMEPE機能は発揮せず(※2)、量産型F91は最大稼働モード自体が設定されていないんですよ。
 この先の話がどうなったのか、あらゆる手がかりを求めて調べましたが、調査は一歩たりとも前に進みません。サブタイトルもわからない(というか、その場面以外、最初から見ていたかどうかも思い出せない)。そしてなにしろ、『まんが日本昔ばなし』には星の数ほど話数があります。そして「お婆さん」なんてキーワードは「昔ばなしの代名詞」も同然ですし、「山姥」が登場するなんて話ですら掃いて捨てるほどあります。そして「分身」「残像」なんてキーワードで調べたところでひっかかるわけがありません。英雄シーブックが海賊キンケドゥとなって野に下り、さらにパン屋になって市井に溶け込んでしまったように、分身するお婆さんの姿は量産型お婆さんや量産型山姥の中に忽然と溶け込んでしまったのです



※1 当時の北海道には日本ハムファイターズなんてありませんでしたから、大人の男性には巨人ファンかアンチ巨人しかいませんでした。地元に球団がない地方が全部そうだとは言いませんが、とにかく巨人しか知る機会がないのです。父はアンチ巨人で、すなわち巨人戦しか見ませんでした。


※2 あくまで当初の話で、セッティングによっては発動可能らしい