トムテ帽


 『ニルスのふしぎな旅』のニルスはアニメだけでなく、どの絵本を見ても先の尖った赤い帽子をかぶり、赤いチョッキと青いズボン、もしくは、同様の鮮やかな原色の帽子や服です。これは(ハイジの場合そうであるように)アニメ版のイメージが、以後他のメディアにも定着しただけなのか、というとそうではなく、1980年の日本のアニメ以前の、欧州(スウェーデンの原作も含め)の絵本でも、帽子の先が、ぼんぼりかアニメのような呼子笛かという違いはあっても、多くが上記のような扮装です。


 これは、「ニルスが魔法で小さくされた」というのが、実は「『ノーム』に変えられた」からで、近代以降のノームが(欧州の庭のガーデンノーム像のように)赤い帽子等のこれらの色合いを身に着けている妖精、と定義されているためです。キノコの裏でドンジャラホイの小人(又は、安野光雅の騙し絵のあちこちに居る小人)の多くが、赤い尖った帽子をかぶっているように、近代ノームの派生の妖精の多くに単に記号化している部分もある。


 ニルスはスウェーデンの妖精小人、「トムテ」の怒りを買い、トムテと「同族」の姿に変えられますが、トムテそれ自体が妖精の個人名や種族名であるとともに、(ヴィルヒュイゲンのノーム研究書に収録の説話にも例があるように)ノームのうちの「一群(氏族)の名」であったり、「個体名」であったりもする。スウェーデンから離れて、ノルウェーにおいては、ニッセ(ニルス)自体がトムテの相当物の名、つまりはノームの別名・部族名・個体名であったりもする。トール神、冬のニコラス(サンタクロース)とこれらが絡み合うのも同様の事情です。


 ニルスの話に戻ると、80年のアニメでは、ニルスは人間の大きさの頃から上記した扮装で、魔法でそのままサイズだけが小さくなります。なので、人間の頃から「ノームの色合い」の恰好をしているのは、実は非常に厳密に考えると辻褄が合いません