ラップロイドは電気鼠の夢を見るか


「この話、『ピカチュウ初音ミクさえ出たことがない紅白にジバニャンが出る』という形で広まってるわね」MEIKOがニュースサイトが映されたディスプレイを覗き込みながら言った。
「それについて、若干気になる話をミクが聞いてきたというんですが」巡音ルカが無表情で言った。
「何」
 MEIKOが目だけ動かした。
「つい先の収録のときにスタジオの廊下ですれちがった、なんだか黄色くて背中に縞のあるずんぐりした生き物が」ルカが無表情で言った。「『自分のデビューの頃に比べて紅白の格が堕ちてるだけだ』とか、ミクに向かってささやいたか、独り言か何かを言っていたらしいのですが」
「あの脳味噌フラワーガーデンのミクの体験でしょ。何も信用できる点がないわ」
 MEIKOが言いながらも、何かをディスプレイの隅のメモの部分に入力し、
「……あと、関係ないけどね、ピカチュウは人間の言葉は喋らないのよ」
「『ポケモン不思議のダンジョン』などのごく一部の例外を除けばそうです」ピカチュウを芸能キャラとしてのみ知っているMEIKOとは異なり、重度のゲーム(特にRPG)廃人であるルカが言った。「補足ですが、ピカチュウは電気・電磁波のポケモンです。ミクを含めて私達VCLD、電子アーティストと交信するのに人間の言葉を必要とするとは限りません」
 MEIKOは答えずにメモのページを切り替えた。
「それと、ジバニャンと一緒に出場するというキング・クリームソーダのゲラッパー氏ですが」ルカが平坦に言った。「以前はLilyの相棒、mosh(注:うしろ)の中の人だった人物なんですが」
「ええ」
 MEIKOはそれに関しては特に新しい情報でもない、とでもいうように、ディスプレイから目を離さずに答えた。
「可能な限り検索してみましたが、この件で『mosh』について触れたものは一件も見つかりませんでした」
 MEIKOは、そこでディスプレイから目を離し、
「そのまま見つからないことにしておいた方がよさそうね。『ミクは有名になる一方なのに中の人は云々かんぬん』とか、『VCLDブームとか言ってことあるごとに初音ミクだけだ』とか『初音ミク以外のVCLDとか関連キャラのデビュー事情は云々かんぬん』とかの見地からは。特にLilyには絶対に知られないように」